【愛の◯◯】どんなワガママだって◯◯

 

 

「この前、愛(あい)をわたしん家(ち)に呼んだ時、わたし、ワンピース着てたんだけど、わたしのワンピース姿を目の当たりにした愛が、とっても狼狽(うろた)えちゃってて」

日曜の夕方4時台。愛の恋人たるアツマさんの実家たるお邸(やしき)に来ているわたし。広めの『リビングC』のカーペットに腰を下ろしているわたしの眼の前には、ソファ座りの大井町侑(おおいまち ゆう)。

わたしは、侑の美しき脚を眼に焼き付けながら、

「愛の狼狽(ろうばい)ぶり、詳しく知りたい?」

と、我ながら浮(うわ)ついた声を出していく。

「わたし、さやかがワンピースを着てるトコロ、いまだかつて見たコトないわ」

微笑みの侑はそう言って、

「愛がどんな風に狼狽したかよりも、その日のあなたのワンピースがどんなワンピースだったのかが知りたい」

ふうーん。

「わかった。侑の想像力を掻き立てられるよう、その日着てたワンピースを全力で描写してみたい」

 

× × ×

 

その日のワンピースについて10分間以上語り続けてしまったわたしは、喉を潤すために、グラスに入った玄米茶をごくごく飲む。

グラスを置いたら、

「わたしもね、昨日ね、愛とアツマさんのマンション部屋で愛とふたりきりで居た時、普段とは違う装いだったのよ」

と侑が言ってきた。

気になるコト言うねえ、あんたも。

「なにそれ、詳しく知りたい」

侑にそう応えたら、

「穿いてるモノが違ったのよ」

穿いてるモノ?

侑は8割方ジーンズスタイルでわたしの前に現れる。今も、ジーンズスタイルでソファ座りだ。

ジーンズとは違うモノを穿いていたらしい。おそらく、ジーンズとは大きく違うモノ。

「――ロングスカート、とか?」

言ってみたら、

「よくわかったわねぇ。わたし、ロングスカートって定義できるスカート、2つしか所持してないんだけど、その片方を穿いてたの」

すぐさま、侑の貴重なロングスカート姿に直面した愛の反応を思い描いてしまう。

思い描いた結果、胸の中心がくすぐったくなってきて、いささか下品な微笑(わら)いを抑え切れず、

「そりゃー、ビックリしてただろーな、愛」

「ビックリしてた。ド派手に驚愕してたワケじゃ、ないんだけどね」

そう伝えてくる侑の表情は、お上品な苦笑い。

 

× × ×

 

明日の勤務が午後からだったので、侑は日曜の夜をお邸で明かすコトができる。わたしも明日は、大学院のキャンパスに行くのは午後からでいい。ふたり一緒にお泊まりできるのである。

アツマさんのお母さんの明日美子(あすみこ)さんが、明日美子さんのお部屋のダブルベッドをわたしたちに譲ってくれた。

夜の11時に近付いている。あと1時間ぐらいなら夜更かししたって何の問題も無いんだけど、『眠気が増してきちゃったわ』と侑が言ったので、侑の睡眠を優先してあげて、既にLED照明を切って既にダブルベッド内に侑と共に入っていた。

「さやか」

左サイドから聞こえてくる甘めの声。

「ワガママ言っても、いいかしら」

「ワガママ?」

気になるから訊くわたしに、

「勤務の連続による疲労、拭えなくって」

と、侑がコトバを漏らしてくる。

……そっか。

それは、そうだよね。

わたしの方は、大学院通いで、「ゆるふわ」の「ぬるま湯」。いまだ、社会の荒波に揉まれたコトが無い。

左サイドの親友女子は、社会の荒波に揉まれても耐え切れる強さを持っている。だけど、強さを持っている、と言っても、時には、拭えない疲労を誰かに癒してほしくなったりする。

「だったらさ」

そう言ったあと、左肩を親友女子の右肩に寄せていき、

「わたしに甘えて、存分に癒されてほしいよ。大抵のワガママなら、わたし、受け容れられる」

「少し難しい言い回しをするのね」

そういうコトバを返してくるけど、侑の声の響きは、だいぶ幼かった。

わたしの左手に親友女子の右手の感触。

侑の絶妙な握力がわたしに伝わる。

「許してね、ワガママ」

声の響きが、やっぱり幼い。

だから、

「どんどんワガママになっちゃいなさい。怒んないから、わたし。明日美子さんみたいに優しく優しく受け止めたげるから」

「明日美子さんみたいに、なんて、相当ハードル高くないかしら?」

「高いからいいんじゃないの」

「――そう言っちゃうのも、さやからしいかも」

「えへへ」