新1年生女子・藤ノ森明菜(ふじのもり あきな)は『KHK(桐原放送協会)』に入会し、定着した。
会の構成員が増えたのだから、もちろん喜ばしい。
……ただ、喜ばしいコトばかりではなく、
『トヨサキ先輩とタカムラ先輩のおふたりは、つきあってるんですか?』
という、藤ノ森明菜が「初登場時」に放ってきた破壊力のあり過ぎる問いが、今でも脳裏にこびり付いてしまっているのである。
おれ即ちトヨサキ三太(さんた)とおれの「同僚」女子のタカムラかなえは、当然ながら交際など一切していない。
おれもタカムラも、誤解を解くために、藤ノ森の認識を必死になって改めようとした。
だが……ベリーショートの藤ノ森のニッコリニコニコスマイルの裏側に隠されていそうな◯◯を思うと、恐怖心は無くならず……!!
× × ×
『新番組の取材をしてほしいんだけど。トヨサキくんと明菜ちゃんのふたりで。トヨサキくんは、西校舎の『読書力養成クラブ』が使ってる教室、わかるよね?』
タカムラかなえのそんな指令によって、おれと藤ノ森明菜は【第2放送室】から屋外へと出た。
おれと藤ノ森を送り出す時のタカムラの眼つきが、険しめで、意味深だった。
西校舎へと続く道を歩いていく。
距離が結構あるので、『会話無きままに歩き続けるのも、どーなんかな』と思って、
「藤ノ森は、読書したりするんか?」
と、右サイドの1年生女子に訊いてみる。
即座に、
「ぜんぜんしませーん☆」
と、明るい声の答えが返ってくる。
ほぼ想定通りの回答ではあったのだが、答える藤ノ森の声が想定以上に明るくて、少しビビる。
「トヨサキ先輩は、どうなんですかあ?」
容姿とは少しギャップのあるソプラノボイスをきらめかせて、藤ノ森が訊き返してくる。
「月に1冊ぐらいは、読んでると思う」
「すっごーーーい!!」
即座に返ってくる大声。
月に1冊本を読むだけなのを『すっごーーーい!!』って賞賛する理由って……なに??
× × ×
『読書力養成クラブ』会長でおれと同じく3年男子の川井田(かわいだ)くんが、おれたち「取材コンビ」の前に立っている。
高垣交多(たかがき こうた)が教室内に居ないのは、好都合か、それとも不都合か。あのオトコのコトだ。あいつの振る舞いがプラスに作用するコトもあればマイナスに作用するコトもあるだろう。
文字数の都合で、高垣交多がどんな変わり者なのかは省かせていただくが。
――さて、取材先の最高責任者と向き合っているので、先輩風を吹かせるとかではないが、1年の藤ノ森よりも3年のおれの方がインタビューのイニシアティブを握るべきだと思って、
「すまんな、時間取らせて。30分程度で終わると思うから、こっちから幾つか質問するけど、気楽に答えてくれよ」
と言い、川井田くんを和ませようとする。
だが、おれが言を発した次の瞬間、
「本がすっごくすっごくたくさんある!! あたし、本がこんなにいっぱいある空間に入ったの、初めて!!」
と、ソプラノボイスの大きな声が、教室中に響き渡ったのであった……。
川井田くん、驚き混じりの苦笑い顔になってる。
藤ノ森さん、場の空気、ちょっとは、読み取って??
「こんなにたくさんの本、いったいどこから調達してくるんですかあ!?」
ソプラノボイスの大声がまたもや響き渡ったので、テーブルの隅っこの方の席で文庫本を読んでいた男子が眼を丸くしながらこっちを見てくる。
「図書館から……が、多い……かな。廃棄される本を、貰い受けたりして」
懸命に応答する川井田くんの声は若干震えている。
「あとは……古書店、とか」
川井田くんがそう付け加えた途端に、
「『コショテン』って、なんですかあ!?」
と、藤ノ森が、3度目の絶叫……。
「ふっ藤ノ森っ、頼むから、声のボリュームをもうちょい落としてくれ」
おれのそんな要求に動じるコトなく、ソプラノ巨大ボイスが自慢(?)の1年女子は、ニコニコフェイスを一切絶やさず、川井田くんからの答えを待っている。
圧倒されつつも、川井田くんは、
「……古本屋さんのコトだよ」
と、答えを絞り出す。
「え!? もしかして、ブ◯クオフみたいな!?」
かなり予想通りのリアクションが藤ノ森から発せられる。もちろん、大声の勢いは失われるコト無く。
「ブ◯クオフとは……ちょっと、違うんだ。ブ◯クオフは、正確には、『新古書店』って言うんであって……」
食い下がる川井田くん、であったのだが、案の定、
「『シンコショテン』って、なんなんですかあ!?」
という巨大ソプラノボイスのクエスチョンがブチ当たってくるので、免れがたく青ざめていってしまう。