大井町侑(おおいまち ゆう)がロングスカートを穿いている。
とても珍しい。女子高校生の制服スカートみたいな丈が短いスカートを穿く侑なら、ときどき眼にする。だけど、ロングスカートだなんて。
マンション部屋。夕方に差し掛かった部屋にアツマくんは居(お)らず、侑とふたりきり。
リビングソファに座る侑の山吹色ロングスカートに視線を押し当てながら、
「今日の侑のロングスカート、新鮮というか、斬新」
「斬新ー? どういう点で斬新なのよー」
苦笑混じりの微笑で訊いてくる侑。
丸テーブルに両手を置いて侑と向かい合っているわたしは、
「だってあなた、普段、ロングスカート穿かないでしょ。ほとんどジーンズだし、穿いてくるとしたら、JKみたいな丈短めのスカートだし」
「『何かキッカケがあったっていうの……?』とか、思ってるんじゃーないの?」
鋭い問い掛けだ。
「思ってるのは、事実」
頷きながら答えて、
「もしかしたら、新田(にった)くんから、『ロングスカート穿いてるきみの姿も見てみたい』って言われた……とか?」
新田俊昭(にった としあき)くんとの交際もとっくに1年を過ぎているのだから、そういう『リクエスト』をされたとしても不思議ではない。
「彼からは、特になんにも言われてないわ」
侑の表情に笑みがいっそう広がっていく。
言われていないんだとしたら、今日はなぜ、ロングスカートなのか。
気になるけど……コーヒーが飲みたくなってきたから、キッチンに向かうためにカーペットから腰を上げる。
× × ×
アツマくんは19時以降に帰ってくる予定だ。
わたしの彼氏が帰宅する前に、親友女子に忘れずに訊いておきたいコトがあった。
親友女子の彼氏たる新田くんの様子について訊きたいワケじゃない。
新田くんの現状なんかよりも、もっともっと大事なコト。
親友女子が抱(いだ)き続けている、未来の夢のコト。
マンションの外では夕暮れの色が濃くなっているコトだろう。
コーヒーを立て続けに2杯飲んだわたしは、カップを丁寧に洗ってから、リビングまで戻ってきて、丸テーブルの間近に再び腰を下ろす。
「お仕事が忙しいとは、思うんだけど」
山吹色のロングスカートを凝視するのではなく、侑の凛とした顔にキチンと視線を当ててあげて、
「絵本は、書き進めてるの?」
大井町侑の夢は、絵本作家。
10代の時からの夢。大学4年の時にとある公募新人賞に投稿して、最終候補まで残ったんだけど、残念ながら受賞は叶わなかった。
落選したコトが侑と侑の現在(イマ)の彼氏を強く結びつけたワケだがそんなのは全く別の話で、
「夢を諦めてほしくないの、あなたには。絵本作家になってほしい。侑の絵本、わたし、読みたい」
熱いキモチを一気に伝えた、から、反動でカラダが少し熱っぽくなる。
そんなわたしを侑がジットリ見下ろしてくる。
わたしの鼓動がわたしの耳に響く。
「書いてるわよ。とーぜんでしょ」
侑から返ってくる答え。
「漫画家志望の彼氏には、負けたくないもの。負けるワケにはいかないもの」
朗らかな声だった。
漫画家志望の新田くんには絶対に負けたくない。新田くんよりも先に夢を叶えて、『ここまで早く上(のぼ)ってきなさいよ!!』と、彼を高みから見下ろしつつドヤ顔で言ってあげたい。
そういう侑の想いがビシビシと伝わってくる。
だからわたしは、カーペットから一気に立ち上がる。
そして一気に、侑から見て右側のソファまで向かっていき、ふわぁっ、と腰を下ろす。
わたしの柔らかいカラダを、体格のほとんど変わらない親友女子に寄せていく。
「侑が自分を見失ってないのが確認できて、よかった」
柔らかく甘い声を、隣の親友女子に届けてあげる。
「見失うワケ、ないでしょ?」
わたしの後頭部を、親友女子が、ポンポン、と優しく数回叩いてくれる。
――オトナな親友女子だ。