授業終了時間の約2分前。
教卓の前に立つわたしは、生徒たちに微笑みかけながら、
「はい、よくがんばりました。今週は、ここまで」
と告げたあとで、
「もう少し寝るとゴールデンウィークだけど、あなたたちは高校3年生なんだから、肩のチカラを抜き過ぎちゃーダメよ?」
と、念押し。
さすがに、『先生とのお・や・く・そ・く』とか、ダサいセリフは繰り出さないけどねー。
チャイムが鳴り響く中、白板(はくばん)の板書を消していたら、
「羽田(はねだ)せんせー」
と背後から女子の声が聞こえてきた。
「なにかしら? シンジョウさん」
白板を向き続けながら訊いたら、
「羽田せんせーは、ゴールデンウィークになったら、彼氏さんとデートするんじゃーないですかー??」
おおぉー。
先日この教室で、彼氏持ちをカミングアウトしてしまったがゆえの、女子生徒による興味津々のクエスチョン……。
わたしは、颯爽と振り向き、
「それは、あなたの想像にお任せよ、シンジョウさん☆」
好奇心満点スマイルで、シンジョウさんはわたしの顔を見つめてくる。
シンジョウさんから見て左斜め前に着席中の男子生徒・フジカワくんが、
「シンジョウおまえ、もう既にゴールデンウィーク気分なんじゃーねーのか?」
シンジョウさんの表情がすぐさま豹変して、
「フジカワうるさい!!! アンタに女子の気分のなにがわかるってゆーのっっ」
こらこらこら。
まだ放課後じゃないんだから、ケンカはほどほどにね。
面白いんだけどね。
× × ×
アツマくんがリビングのソファに移動してから約10秒未満でアツマくんから見て右隣にやって来て、
「アツマく~ん、ホグホグして~~??」
と要求する。
左肩を右肩に密着させての要求。甘い声音での要求。
もちろん『ホグホグして~~??』とは、5連勤を終えたわたしのカラダをホグしてほしいというコトである。
「ホグホグしろって、どこを?」
「そうねえ」
3秒間だけ考えて、
「右腕。やっぱり利き腕だから。右腕のあとは、右肩」
「左腕と左肩は、やらんでいいのか」
「ツベコベ言わないで、わたしのリクエストに従って」
小さく舌打ちするアツマくんに一切構わず、カラダの向きを変え、右腕を彼目がけて差し出していく。
実を言うとアツマくんは昔っからマッサージスキルが高くて、わたしのカラダの凝(こ)りを数え切れないほどホグしてくれてきた。
今夜のホグホグもやっぱりプロ級で、凝り固まったモノをわたしのカラダとココロから見事に一掃してくれたのであった。
「ありがとう、アツマくん☆」
感謝のすぐあとで、ごほうびに、両膝の上に寝転がってあげる。いわゆるひとつの膝枕である。
「おのれは猫かっ、愛(あい)……」
そうツッコミを飛ばしてくる彼氏は、かわいくないと同時に、かわいい。
彼氏のリアクションが、期待通りのくすぐったさをもたらしてくれたから、
「ねえねえ、わたしが常勤講師になってから、まだ1か月も経ってないんだけど――」
と甘めの声を出し、
「今朝、女子生徒に、『愛先生(あいせんせい)』って、下の名前で呼ばれちゃった♫」
と打ち明ける。
「……ずいぶんとフレンドリーなんだな、女子生徒が。おまえとそれほど歳が違わんからか」
「距離が遠いよりは近い方が、ゼッタイゼッタイ良(い)いでしょ!? わたし、フレンドリーな彼女たちが、かわいくってかわいくって仕方がないの☆☆」
膝枕のまま――語尾に星マークを2つくっつけちゃうわたし。