【愛の◯◯】放課後おにぎり卒業宣言

 

放課後。

例によって、水たまりのように小さな池の前に、ウッツミーが。

彼はなにか食べている。

…なにを?

 

ウッツミーの食べているものが知りたくて、左隣に腰を下ろした。

 

「うおっ、小路(こみち)かよ」

「だよん。小路ヨーコだよん」

 

…おにぎりを頬張ってたんだね。

 

「それ、学食で売ってるやつだよね?」

「…ああ。さっき、買ってきた」

「へえ~。男子って、すぐお腹が空くんだね」

 

若干照れ気味に、

「……昼飯から晩飯までが、長過ぎるんだよ」

と、ウッツミー。

 

「まあわかる気はする」

とわたし。

「ウッツミー野球部だったんだし、間食したって、そんなに太らないカラダなんでしょ」

とわたし。

「普段からカラダ動かしてるから、食べる量多くっても平気なんだよね。…そういうことでしょ?」

「…まあな」

 

おにぎりを食べるウッツミー。

小石を手に取って、池に投げ込むウッツミー。

ぽちゃん、と波紋ができる。

 

その波紋を見ながら、

「これまでは、それでよかった。じゅうぶん運動してるから、バカ食いしたとしても問題は無かった。

 …これまでは、な」

と言うウッツミー。

 

『これまでは』??

 

「どういうこと? これからは、節食する、ってことなの?」

「節食、か」

視線を池から離さずに、彼は、

「いいコトバだな。節食っつーのは」

と言って、さらに、

「今週で、放課後のおにぎりも、卒業だ」

と言うのである。

 

「……ダイエット??」

訊くわたし。

 

答えてくれないウッツミー。

 

× × ×

 

男子に、ダイエットしてるかどうか? なんて訊くっていうのも、奇妙なシチュエーションな気もする。

 

奇妙ともいえるシチュエーションのなかで、微妙な空気が流れる。

 

わたしの疑問に答えてくれないどころか、池の水面を見つめたまま、うんともすんとも言わないウッツミー。

 

時折、彼は小石を池に投げ込み、わたしは拡がる波紋を眺める。

 

我慢比べみたいな状況。

 

……無言に、我慢できなくて、

「いいや、ダイエット云々は。いろいろ考えがあるんだよね、あんたにも」

と言い、

「別の話、しよーか。学祭(がくさい)のこととか」

と言って、ウッツミーの横顔を見る。

 

ウッツミーは真剣な眼差しだった。

 

…だけど、わたしのことばを合図にするみたいに、真剣な眼差しは次第にほぐれていった。

 

少し目線を下げ、苦笑いになって、

「…おまえ、おれのクラスの出し物の詳細、知りたいんだろ」

とようやく、声を出してくれる。

わたしは彼の問いをうけて、

「知りたいよ。ぜひとも教えてほしい。今がいい。もう今週末が学祭なんだし、詳細は早めに知っておきたい」

と迫っていくけれど、

「マジ、知的好奇心の塊(かたまり)みたいな女だな、おまえは」

なんて、言われてしまう。

 

「そんな言いかたは……好きじゃない」

不満だから、言った。

「怒っちまったか?」

「怒るまでは行かないけど、不満だし、不服」

「そっか」

思案するような素振りで、

「なんて形容したらいいんだろうな……おまえのこと。さっきみたいにヘタなこと言ったら、ダメだろ?」

「ダメ。NG」

「そうなのなら……おまえが喜ぶようなことを、言わないといかんよな」

 

「わたしが……喜ぶような……?」

 

「おまえを、なにかにたとえるんだったらさ」

 

「……」