【愛の◯◯】どうしようもないみたいな振替休日

 

会津くんとギクシャクしたまま、文化祭を終えてしまった。

 

せっかくの2日制の文化祭だったのにイマイチ楽しめなかったのは、会津くんとギクシャクしたままだったから、なんだろうか。

 

文化祭を取材する仕事もあった。

わたしは、会津くんに同行して取材するのを避けたくて……2日間ずっと、単独行動で取材をしていた。

 

……ヒナちゃんは。

ヒナちゃんは、わたしと彼の「事情」について、なにかを感づいているのかもしれない。

ヒナちゃんだって、そんなに鈍感なわけじゃないんだから。

 

× × ×

 

とにもかくにも文化祭は終わってしまった。

月曜日。振替休日がやって来てしまった。

まさに、「あとの祭り」……。

 

× × ×

 

なにもすることが無い。

近所の公立図書館から借りた本を読むモチベーションも無い。返却期限が迫ってるのに。

音楽も元々そんなに聴かないし、映画もアニメもドラマもそれほど観ないし。

 

月曜の昼間だから、地上波テレビのスポーツ中継なんて、やっていないだろう。

テレビもつまんないし。

You Tubeもつまんないし。

TikTokとか、インストールすらしてないし。

 

…唯一、それなりにモチベーションが湧いてくるのは、校内スポーツ新聞のバックナンバーをチェックすること。

 

× × ×

 

ベッドで仰向けになりながら、バックナンバーを読み返す。

 

……会津くんの書いた記事が、どうしても眼についてしまう。

 

いつの間にかわたしは……会津くんの書いた文章にこころの中でツッコミを入れることに、熱中し始めてしまっていた。

批判するために読んでいるような、そんな感覚。

そんな読みかた、良くない。

良くないって、分かってる。

だけど、やめられない。

分かってるからこそ、なのかもしれない。

 

わたしの書いた文章だって、穴はたくさんあるのに。

会津くんの文章の粗(アラ)ばっかりが、眼についてしまう。

 

『張り合うなんて、バカげてる……』

そんな感情がムクムクと盛り上がって、やがて自己嫌悪に陥ってしまう。

 

時刻は午後2時台。

小鳥のさえずりも聞こえてこない。

居心地の悪い静寂。

 

× × ×

 

「なーんかムシャクシャしてるんじゃないの? ソラ」

 

――ママに指摘されてしまったのは、夕食後だった。

 

仕事疲れを癒やすために、例によってママはお酒を飲んでいる。

ハイボール片手のママ。

真向かいのソファが空いていた。

わたしはそこに、腰を下ろしてみる。

 

「ムシャクシャっていうより――モヤモヤっていうほうが、近いかも」

打ち明けるわたし。

「原因は??」

訊かれて、押し黙る。

うつむき気味に押し黙りのダメなわたしに向かって、

「なによぉ。思い切って、話してごらんなさいよぉ。今がチャンスよ。

 ――パパには、聞かれたくないでしょ??」

たしかに、ママ以外に、ざっくばらんに気持ちを言える人間は……居ない。

 

テーブルのカマンベールチーズを、1ピースつまむ。

包装を剥がしながら、

「部活の同級生との折り合いが……ちょっと」

と、言う。

言うんだけど、

「部活の同級生って、会津くんよね。ずばり」

と……すぐさま、ママに見透かされてしまって、つらくなる。

 

「男子との折り合いのことなのなら、なおさらパパに聞かれたりしたら不都合……か」

ママは言う。

わたしはうなずく。

ママはグラスに入った角ハイを飲む。

 

どうしよう。

グズグズしてると、パパがやって来ちゃって、女同士だからできる人生相談もできなくなっちゃう。

だけど焦るごとに、言い表したい感情を言い表す勇気が、遠ざかっていく。

 

「…ソラは、会津くんと1年半つきあってみて、どんな感想?」

 

ママが唐突に言った。

条件反射で、背筋がヒヤリ、となってしまう。

 

「ご…誤解を招かないでよ、ママっ」

うろたえながら言う。

「誤解を招くって、なによー」

余裕のママに、

「1年半『つきあってみて』、って表現が、良くない」

と言い返す。

「まーね。つきあってみる…って、男女交際的なニュアンスもあるわけなんだしね」

「そういうことだよ。ママ」

「紛らわしいから、敢えて言ってみた」

「ま、ママっ!!」

「ヒドいって、思った?」

「ヒドい、というより……ママにまで、かき回してほしくなんか……ないからっ」

「かき回す、ねぇ」

グラスの角ハイを飲み干して、

「ずいぶん面白いことになってるみたいね」

と言うママ。

「主語が……無いよ。ずいぶん面白いことになってる……って、いったい、なにが!?」

テンパるわたし。

上目遣いに面白がるママ。

出し抜けに、

「――あんたたちの事情、仕事に使えそう♫」

とか言い出す、ママ……。

 

……仕事は関係ないでしょっ。

 

ラチがあかないまま、振替休日が終わっていってしまう……。