頬杖をついて、秋晴れを眺めていた。
すると、水谷に、
「休憩してる場合じゃないよ、会津くん」
と怒られた。
「文化祭、明後日なんだよ!? あ・さ・っ・て!!」
さらに怒る水谷。
ボクは座ったまま、
「だれでもわかり切ってる事実を、そこまで強調する必要も無かろうに」
とツッコむが、
「どうしてそんな無神経なこと言うの!?」
と水谷の怒りは増していって、
「立ちなさい!! 会津くん」
と、いきなり命令してくるので――あいも変わらず、厄介なのである。
「――わざと先生みたいな口調で言っただろ」
「そうだよ。会津くんがあまりにも無神経だから」
「あまりにも、を付けるな。余計だ」
……そう言いつつも、ボクは「起立」してやる。
「ホラ。立ってやったぞ」
「……」
「なぜ黙るか。次は、ボクにどうしてほしいんだ?」
約6秒間ソッポを向いたあと、水谷は、向き直って、
「……文化祭関連の突撃取材に行こうよ」
「突撃」を付ける意味があったか。
あと、約6秒間の微妙な沈黙の…意味は??
× × ×
「こんな遠くの場所でも展示はやるんだな」
「今回の文化祭は、例年になく規模が大きいんだって」
「ふうん。だれからの情報だ?」
「生徒会」
「生徒会の、だれだよ」
水谷はとても不機嫌そうに、
「…生徒会長。」
と。
「…なんかすまん。詰問(きつもん)みたいになってしまった」
「そうだよ。詰問だったよ」
ボクに背を向けて、天を仰ぐ水谷。
彼女は、
「あーーっ。会津くんにデリカシーを植え付ける方法、無いのかなーーっ」
と、秋の空に向かって言う……。
そんな水谷の背中を見て、
「注目を浴びるようなパフォーマンスも、ほどほどにな」
とボクは注意する。
「パフォーマンス!?」
素っ頓狂に叫ぶ水谷。
おいこら。
「パフォーマンスってなに。パフォーマンスって、パフォーマンスって!!」
ワナワナ震えつつ言う水谷。
「あのなぁ」
ボクは努めて冷静に、
「ボクと君だけが、この場所に居るわけじゃないんだ」
「……」
「展示の準備を頑張ってる文化部の人たちの存在を、忘却したか??」
そう。水谷とふたりきりな空間とは、違うのだ。
周りには何人か、展示の準備を頑張ってやっている方々が居(お)られるのである。
そんな中で、水谷はボクめがけて、有ること無いことを喚き散らしていたのである。
わきまえてもらわなくては困る。
デリカシーが無いのはどっちだ。
『何事か!?』と、数人、ボクらのやり取りに驚いて立ち止まっちゃってるじゃあないか。
歩き出す水谷。
ボクとは反対方向に。
どんどん小さくなる水谷の背中。
騒動になる前に――駆け出して、水谷を追いかける。
× × ×
「こ、こ、ここなら、だれも来ないし、ふ、ふたりで話せるよねっ」
喘(あえ)ぎながら水谷が言う。
「――必要性は?」
「え…」
「だから。ふたりで話す――必要性は?」
息を整えたあとで、
「…大したことじゃ、ないんだけどね」
と言う水谷。
「大したことじゃないのなら、なにゆえ、こんな校内の最果ての地まで――」
「……大したことじゃないの、ホントに」
疑問に答える気も無いらしい。
「わたしね」
水谷は続ける。
「知りたいんだ」
……は?
「なにを。なにを、知りたいんだよ? 目的語を省くな」
およそ3歩、ボクに歩み寄った。
それから、不可解にも、真下の地面に向かってうつむいた。
それからそれから、今度は頭上の樹を仰いで、すぅっ、と息を吸い込んだ。
「わたしが、知りたいのはね」
眼を泳がせつつも、
「先週の金曜日――祝日に、ヒナちゃんとふたりでテニス大会の取材に行って、どうだったのか? ってこと」
と言ってきた。
「それは……コメントに困るな」
正直に伝えると、
「感想で……いいんだよ」
と水谷は。
困ったな。
感想めいたものを言わなければ……水谷が、また面倒くさくなってくるのは必然。
かといって、いったいなにを水谷に提示すればいいのか。
正直。
テニス大会を観た印象とか、日高と取材をした感触とか、そういうことよりも――記憶に残っているのは。
「日高が――、ドーナツ屋の出店(でみせ)を発見した」
「!?」
唖然として……、
「それが、感想!?!? ドーナツ!?!? ドーナツ、って……!? テニス、かんけーないじゃん。どーしてそんなトボけたこと言ったわけ?? ねえ!!」
背を向け、地面を大きく踏み鳴らして、着実にボクから遠ざかりながら、
「ふざけないでよ!!」
と……激怒の声を上げた。