「…日高。君は、もっと慎みを持ったほうがいいと思う」
「??? 慎みって、なに。会津くん」
「きのう、濱野先輩にインタビューしていたが……。どう考えても君は、はしゃぎすぎていた」
「ええぇー」
「君は『反省』という漢字二文字を知らんのかっ」
「会津くん」
「……」
「そんなにコワい顔にならなくたって」
「……だれのせいだと思ってる!?」
「だからー、コワい顔、やめてよー」
イライラしながら、メガネの中心に指を当てる会津くん。
対するヒナちゃんは余裕。
『こういう対照性も、面白いな……』
こころの中で、わたしはわたし勝手(がって)に呟くのである。
「会津くん、部活はとっくに始まってるんだよ。手を動かそうよ」
ヒナちゃんが言った。
言ってから、椅子にちょこん、と座り、ノートPCをオープンする。
可愛い仕草だ。
そう。
…可愛い仕草。
…わたしには、真似のできない…そんな仕草。
彼女はカタカタとキーボードを打ち始めながら、
「会津くんもなんかやったら?」
と促していく。
会津くんは立ったまま、なんにも答えない。
「――なんで棒立ちなのかな」
PC画面に向かって苦笑するヒナちゃん。
「……ボク、取材に行く部活を、考えて来てなくて」
「ダメでしょ、そんなことじゃあ。用意周到にならなきゃ」
ヒナちゃんは短くお説教。
「――そうだ。運動部取材もいいんだけど……文化祭の取材をしてみたら?? もう9月下旬でしょ?? 迫ってるよ、文化祭」
なるほど。
ヒナちゃんの言う通りである。
ヒナちゃんの正しいご意見に、こころを動かされたのか、
「なるほど。…よし、文化祭の展示について、調査して来ようか」
と言う会津くん。
彼はヒナちゃんのもとから離れ、ドアに向かって行こうとする。
……するんだけど。
「――会津くん。ちょっと、待ってよ」
わたしが――呼び止めた。
「? ……どうしたんだよ、水谷」
「伝達事項があるの」
「……そうか」
わたしは、PCに夢中なヒナちゃんのほうにも向いて、
「ヒナちゃんも、聞いてほしいな」
とお願いする。
「なになにソラちゃん?? いったい」
ヒナちゃんがわたしを見る。
短く深呼吸。
それから、わたしは、
「明日――テニス部の大会があるんだって」
と言う。
「ふーん。ボク、いま知ったよ」
「あたしもいま知った」
「マイナー寄りの大会らしいからね」
と言うわたし。
「で、本題は、ここからで――」
彼と彼女からの視線を受けつつ、わたしは、
「3人で行けたら、良かったんだけど。
わたしとヒナちゃんと会津くんの、3人でね。
でも、それができなくなっちゃったの」
「――なんで?」
訝(いぶか)しむヒナちゃん。
軽く息を吸い上げてから、
「……模試を、受けなくちゃいけなくなって」
と理由を言う、わたし。
「あーっ」
ピンと来たのか、会津くんが、
「そういえば、明日の祝日に模試をやるって、どこかで見たなあ」
と。
「知ってたんだ。
じゃあ、話が早い…かな」
「?? …話が早い、とは。水谷」
「…ううん」
と言いながら、わたしは首を横に振り、
「話が早い…っていうより。
わたしには、お願いしたいことがあって」
疑わしそうな顔の会津くん。
キョトーンとしているヒナちゃん。
――ふたりを、同時に見て。
わたしは。
「ヒナちゃんと会津くんのふたりで――テニスの大会、取材してきてよ」
彼と、彼女は。
顔を、見合わせた。
『……絵になるんだもんな。お互いの、そういう素振りも。』
ものすごーく小さな声で、わたしは呟く。
もちろん、彼と彼女には、聞こえていない。