「~~♫」
鼻歌を歌いながら、ヒナちゃんがノートPCでテレビ欄を作っている。
「――よし。」
エンターキーを押すヒナちゃん。
テレビ欄、完成したみたい。
「終わった? ヒナちゃん」
「うん、完成だよ、ソラちゃん。きょうの出来は、満足で納得」
満足で納得、か。
面白い表現。
――ふと、
ヒナちゃんの髪が、また長くなったことに気づく。
ヒナちゃんの素敵な髪。
対するわたしの髪は……中途半端。
中途半端というのは、中途半端に伸ばしてしまっている……というのと、ほぼ同義。
両肩まで届かないわたしの髪。
かといってショートカットなわけでもなくって、ほんとうに微妙な長さ。中途半端な長さ……。
「…ソラちゃん?? どうしたの」
いけない。
キョトーンとして、ヒナちゃんがわたしを見ている。
「ご、ごめんね。心ここにあらず状態だったよ……あはは」
取り繕うわたしを、優しい顔でヒナちゃんは見つつ、
「……休憩タイムかな」
「このタイミングで、休憩?」
「おやつタイムにしよーよ。オレオ持ってきたし。きのうはお菓子禁止デーだったけど、きょうはオレオを存分に食べられるよ?」
青い箱をヒナちゃんが出した。
「…オレオもいいけど、水泳部の取材があるでしょ、きょうは」
「平気だよ。時間過ぎちゃったら、お詫びの連絡、あたしが水泳部に入れとくから」
…マイペースだな。
もうヒナちゃん、オレオ食べようとしてる。
「そんな適当なことでいいのか、日高」
横槍を入れたのは、会津くんだった。
オレオを食べる寸前だったヒナちゃんに歩み寄ってくる。
少し不機嫌に、
「適当とマイペースは違うよ」
とヒナちゃん。
「マイペースは方便だろ」
と会津くん。
「!? なにそれ」
ドン引(び)くヒナちゃん。
「時間は守ったほうがいい。水泳部も、待たされると嫌だろう。取材にも悪影響が出てくるかもしれない」
「悪影響!?」
「ほんとうに大事なことを、水泳部員から引き出せないかもしれないぞ」
「……もっと分かりやすく言ってよ」
「遅刻して、水泳部の機嫌を損ねたら、取材が失敗するかもしれないってことだ」
「……」
ヒナちゃんは、ふさぎ込むように考え込んで、
「…わかった。わかったから。
あたしがこのオレオ食べたら、出発で」
× × ×
ヒナちゃんが熱心に水泳部員にインタビューしている。
「あんまり言い過ぎちゃダメだよ、会津くん」
ヒナちゃんを見守りつつ、わたしは、隣に立っている会津くんをたしなめる。
「…別に言い過ぎでもなんでもないだろ」
「会津くぅん」
「…なんだよ」
「眼を逸らさないでよ」
「ぐ…」
「ソッポ向いてわたしの話聞くなんて、いい度胸だね」
「…」
――会津くんと隣同士で眺める、インタビュー風景。
わたしと彼は無言で、インタビュアーのヒナちゃんを見守る。
「……かわいいな、ヒナちゃん」
小さく……つぶやいてしまう。
会津くんに聞こえていたら、不都合。
チラッと彼を横目で見る。
彼には、なんの変化もない。
とすると、聞こえてなかったんだろうか?
「水谷、」
口を開く会津くん。
「水谷。ボクはちょっと、日高を援護してくる」
援護ってなに、援護って。
「――言わないでよ、おかしなこと」
苦笑しながら、わたしは、会津くんに。
「ボクはなんにも変なことなんか言ってないぞ」
「――ホントぉ??」
「……気に食わないな」
わたしの隣から離れ、ずんずん……とヒナちゃんのもとに歩いていく、彼。
会津くんとヒナちゃん。
彼と彼女が、並び立つ光景……。
「……絵になるんだもんな。」
だれも周りに居ないから……、
ひとりごと。