KHKの新番組企画も、だいぶ形になってきた。
あとひと押しだ。
春休みも、がんばって活動しなきゃな……と思いながら、勉強机の上で資料を整理していると、コンコン、とノックの音。
たぶん…姉のノック音だ。
× × ×
やはり姉だった。
入ってくるなり、カーペットに体育座りになる姉。
姿勢は…当人の自由として、
「なにしに来たの、お姉ちゃん」
「利比古が元気かどうか見に来たの」
「ほんとにそれだけ!? あやしいよ」
悲しそうな眼になる姉。
「わ、わかったわかった、わかったから。元気だから、ぼくは」
姉は立ち直って、
「それはよかった。――じゃあ、元気ついでに、KHKの近況報告をしてよ」
「唐突だなあ……」
「わたしらしい唐突さだと思ってよぉ」
意味が…不明瞭だよ? お姉ちゃん。
× × ×
ぼくの話を聴いて、
「――順調そうね。
あとは、助けてくれる子が出てくるかどうか、よね」
「それね。…なんとかして、4月になったら、入会してくれる子をかき集めないと」
「利比古ひとりぼっちのKHKじゃ、つらいわよねえ」
「もうすでに疲れてるよ、ぼくは。校内放送に番組の取材、どれもこれもひとりでやってるんだから…」
ふむ、といった表情で、ぼくを見やり、
「もんであげようか? 肩」
…ぼくは思わず条件反射で、
「…間に合ってるからっ」
と言ってしまう。
残念そうな眼になる姉。
ケアしなきゃと思い、椅子から降りて、テーブルを挟んで向かい合いになって、
「ごめんね。ガッカリさせるようなこと言って」
「……」
「あのさ……ぼく、腕がちょっと疲れてて」
「……」
「ハンドマッサージ、してくれないかな。お姉ちゃん、得意でしょ」
「!!」
ぱーっと笑顔を輝かせる姉。
「お安い御用よ!」
弾んだ気分で、ぼくの腕に手を伸ばしていく。
× × ×
「利比古の腕の疲れも癒えたところで――」
「え? まだ部屋にいるつもりなの、お姉ちゃん」
「いちゃダメ?」
「……」
「この部屋来てから、1時間経ってないし」
「……」
「まだ文字数、800字とかだし」
ブログ記事の文字数うんぬんは、ほんとうにどーでもいいことだと思うけれど。
……観念したぼくは、スッと立ち上がり、棚から教科書や問題集のたぐいを取ってくる。
「部屋に居続けるつもりなら、ぼくの家庭教師になってください」
「あら、積極的ねえ」
「もう週明けには引っ越しなんでしょ? お姉ちゃん」
「そうよ」
「お姉ちゃんがひとり暮らし始めちゃったら、ぼくが勉強を教わる機会が激減するじゃんか」
「たしかに。」
「4月から3年生ってことは――いよいよ受験生ってことだし」
「たしかに、たしかに」
「だから…頼むよ」
「お安い御用。なんでも教えてあげるわよ」
「英語は、除外するとして」
「元から得意な教科を伸ばしてもねぇ」
「国語が…無難だと思う」
「そーゆーと思った」
「文系なんだし…国語は、最重要だよね」
「当たり前の当たり前でしょ」
「ぼく、現代文の試験問題が、イマイチ解けないんだ」
「…お姉さんに任せなさい。現代文読解のことは」
「頼もしくて、助かる」
おもむろに、テーブル上の置き時計に視線を注ぐ、姉。
含みのある笑い顔で、
「…いつまで、やる??」
「なーんか、企んでる顔だね……」
「企んでるわよ」
「なんでそこ肯定するの」
「春休みでしょ??」
「それがどーしたの」
「夜ふかし、できるでしょ」
「まーた、『夜ふかし』だとか…」
「オールナイトでもいいのよ」
「…ジョークだよね? それ」
「オールナイト利比古」
「…怒るよ」