【愛の◯◯】なんでじぶんの姉のポニーテールをほどかなきゃならないの!?

 

12月28日。

 

年の瀬だなあ……。

 

 

2学期を、ふと振り返ってみる。

 

放送部との交流が、増えた。

北崎前・部長、猪熊現・部長、小路さんたちと顔を合わせる機会が大幅に増えたと思う。

 

KHKの先輩ふたりも、引退しちゃったし。

ますますKHKと放送部を往復するみたいになっちゃうんじゃないのか……という不安がよぎる。

KHKを、放送部の下部組織みたいには、させたくないんだけどなあ。

あくまで、対等の立場で――。

そこのところ、猪熊さんも小路さんも、来年は――よろしくおねがいしますよ。

 

× × ×

 

2021年の脳内反省会をしながら階段を下り、リビングへ歩いていった。

 

すると、眼の前に、姉とあすかさん。

 

…いや、姉とあすかさんがふたりそろっているだけならば、物珍しくはないのだが、

物珍しいことに…、

ふたりとも、

ポニーテール。

 

「――利比古くん、考えごとしながら歩いてた? 下向いてリビングうろついてると、スタンドライトとかにぶつかっちゃうよ」

「……どうしてぼくが考えごとしながら歩いてたってわかったんですか」

「むしろ、わからないほーが、おかしい」

「はあ……。」

 

やけにカンがいいあすかさん。

話題を転換しようと、ぼくは、

「ポニーテールですね。あすかさん」

「だよ。ポニテだよん」

「ポニーテールのあすかさんを見るのも、久しぶりな気がします」

「え~~っ」

「な、なぜ不満顔に!?」

ポニテにならなかったっけ?? 9月ぐらいに」

「お、おぼえてません」

「えー。利比古くんにも見せたはずだよ、わたしのポニテ

「おぼえてませんって」

「残念だな」

「…定期的に、邸(いえ)の男性陣に、ポニーテールを見せたくなったりとか?」

「…やらしいこと言うねえ、利比古くんも」

「…嫌らしかったら、すみません」

「でもあなたの言う通りかもね。ポニテで強烈アピールしたいのかも」

「……なにを、ですか? 強烈アピールすべきものが、あるんですか……?」

「――バンドでギター弾くときも、8割がた、ポニテにしてるし」

ぼくの疑問に答える気を見せてくださいよ

 

……どうしようもないあすかさんの横で、いささか不満げな、姉。

姉も、ポニーテールである。

 

「あ。お姉ちゃん、似合ってると思うよ」

「…ずいぶん、社交辞令ね」

「…ごめん」

「髪も伸びてきてたし、ポニテにするにはちょうど良かったのよ。……ねえ、せっかく利比古の前でポニテになったんだし、もっともっとほめちぎってよ

 

えええ……。

お姉ちゃん、『圧』が、強すぎるよ……!

 

× × ×

 

いろいろあって、姉の部屋。

 

姉がおもむろに、

「利比古、ポニテほどいてくれない?

 

!?

 

ちょっと!! なにのけぞってんのよ

 

だれだってのけぞるよっ!! じぶんでほどけば済む話じゃないの!?」

 

「――そんなに単純な話じゃないんだからね」

 

「どういうことなの!?

 ほどいてもらいたいんだったら、『適任者』がぼく以外に居ると思うんだけどっ。

 アツマさんとか、アツマさんとか、アツマさんとか……!」

 

「きょうは――じぶんの弟に、ほどいてもらいたくって。」

 

ぼくがもうちょっと気が短かったら、怒って部屋を出てるよ…。

厄介すぎる姉を、持ってしまった…!!

 

 

泣く泣く、姉のポニーテールをほどき始める。

ぼくに背を向ける姉を、背後から見る。

慎重にヘアゴムに指をかける。

「……痛くないよね? お姉ちゃん」

「エロいワード言わないでよお、利比古」

「ふ、ふざけないで」

だいじょうぶだ、ゆっくり落ち着いてやれば、うまくヘアゴムを外せるはずだ……とこころになんども言い聞かせ、指を動かす。

抜けるヘアゴム。

ふぁさっ……、と、姉の栗色の髪が、拡がっていく。

じぶんの姉の髪なのに、あまりにも鮮やかできれいな長髪が眼に焼き付いてしまい、軽くドギマギする……。

 

「ありがと利比古。ところで――」

「な、なに??」

「きょうって、12月28日だよねぇ?」

「だ、だれがどうみたってそうでしょっ」

「……」

「……?」

よふかし。

「え」

「わたしと夜ふかししなさい。拒否権、なし!」