【愛の◯◯】音楽と幼なじみの夫婦漫才、それからそれから……

 

こんにちは!

3連休もクライマックスですが、皆さんいかがお過ごしですか?

 

ぼく、ムラサキです。

笹田ムラサキ。

 

もうすぐ大学2年生なぼく。

コンプレックスである低い身長は、少しも伸びてくれず……。

 

――いやいや。

せっかく春が訪れたのに、初っ端からネガティブな話題は、やめておきましょう。

 

× × ×

 

学生会館に来たんです。

 

所属している『MINT JAMS』のサークル部屋に入ったら、アツマさんは不在だった。

春たけなわで、なおかつ就活シーズンたけなわ。

なかなかサークルにやって来られないのも、無理はない。

 

在室していたのは、卒業する5年生の山田ギンさんと、それから、女性がもうひとり。

彼女は、茅野(かやの)ルミナさん。

ギンさんよりひと足早く卒業して、ひと足早く就職されたお方だ。

 

長い付き合いらしい。

ギンさんとルミナさん、この大学の附属幼稚園(だったっけ?)から、ずーっとエスカレーターで、大学まで上がってきた、とか。

つまり、ギンさんとルミナさんは、幼なじみ。

 

 

ぼくはふたりにあいさつをしてから、

「きょうは、お休みなんですか? ルミナさん」

「そ。休みもらったの、あたし」

答えてくれる彼女。

 

「聞いてよぉ、ムラサキくん」とルミナさん。

「え? なんですか」

「ついにギンが就職するの」

「えっ! それは、おめでたい」

「てっきり、卒業してもプータローなんじゃないか、って思ってたんじゃないの?? ムラサキくんも」とルミナさん。

慌ててぼくは、「いっ、いえいえ、そんなこと考えたこともありません」と本心で否定し、

「ほんとうにおめでとうございますギンさん。卒業も就職も、うまくいって……。」とギンさんの顔を見て祝福してあげる。

 

「ほんとうにありがとう、ムラサキくん。社会人になれたよ、おれも」

すかさず、「社畜だけどね」とちょっかいを出すルミナさん…。

『しょうがないなあ』という気持ちのこもった呆れ顔でギンさんは、

「そうだよ。飼いならされる立場だよ」

「名実ともに、ギンにマウント取ることできるね。あたし、地方公務員なんだし」

「…あのなあ、ルミナ」

「なによ」

「…『職業に貴賤はない』ってことば、知らないのか」

「んーっ」

「知ってて知らんぷりをしてそうな顔だな、おまえ…」

「――職業に貴賎なしかどうかは、わかんないけど」

「?」

「少なくとも、音楽に貴賤はないよね

 

――ルミナさんの言うとおりだと、ぼくも思ったが、ルミナさんの思うままにあしらわれているギンさんは、嘆息するばかり。

 

× × ×

 

「ルミナよ…。元気だな、おまえ。元気っ子だ」

「子どもじゃないもん」

「職場の児童文化センターでも、『子ども』になってないかどうか心配だ」

「バカなこと言わないでよ。心外な」

 

すごい勢いでギンさんからPCのマウスを強奪する彼女。

すごい勢いでPC版Spotifyを立ち上げ、楽曲を再生しようとする彼女。

 

「――ルミナさんのお気に入り曲を、聴くんですか?」

「よくわかったね、ムラサキくん」と彼女。

「自分勝手な」とボヤくギンさん。

「自分勝手じゃないよ。この部屋のPC、あたしとギンの共同所有だもん」

「いつからそーなった、いつから」

「だいぶ前から」

「このPCはみんなのものだぞ」

「…そういう事実は認めるにしても、共同所有だという事実もまた、厳然として存在する」

「意味わからんのだが」

「ギン、所有権、ってわかる?」

「おまえ……良からぬ意味で、所有権を行使しようとしてるだろ」

民法とは違うから

法学部出身とは思えない横暴ぶりだな

 

…おもしろい。

ふたりのやり取り、とてもおもしろい。

 

× × ×

 

ルミナさんが再生したのは、My Little Loverの「Man&Woman」という楽曲だった。

 

「この曲知ってる? ムラサキくん。90年代J-POPなんだけど」

訊くルミナさん。

 

実のところ……ぼくは、良く知っている。

 

「ハイ。My Little Loverは、だいぶ聴いてますから。とくにデビュー・アルバムの『evergreen』収録曲は、そうとう――」

 

 

あはは……思ってもみなかった様子だ、ルミナさん。

 

「ムラサキくん、ムラサキくんって……2000年代産まれ、でしょっ??」

「ハイそうです、2002年です」

「なんで産まれる7年前の音楽を、そんなに……」

 

「ルミナ」

「なっなによ、ギン」

「ムラサキくんをおまえが舐めすぎなんだよ」

「んなっ」

「あと、産まれる7年前の音楽だとか、そういうことはあんま関係がない」

「んなななっ」

 

「あのなー」と言って、苦笑いしつつ、ギンさんは、

「『音楽に貴賤はない』って言ったよな、おまえ」

「…言ったけど? それが、なにか!?」

「…音楽に、古いも新しいも、ないんだよ

 

おお。

ギンさん、カッコいい。

 

「ギンさんすごいです、いまのことば、キマってます」

「えへへ」

彼は照れ笑い。

 

憮然とするルミナさんのことも気遣わねば、とぼくは思って、

「ルミナさん」

「…ムラサキくん?」

My Little Lover、いいですよねえ」

「…そりゃあ、いいよ」

「実はぼく、『Man&Woman』の歌詞を分析する文章の構想とか、温めていて」

 

「――分析?? 文章の構想??」

 

あれ。

おかしいこと言ったかな、ぼく。

 

「……」

「どうしました、ルミナさん」

「ギンとは違った意味で……めんどくさいのね

「? だれがですか」

もうっ