【愛の◯◯】電話帳をスクロールする指も固まる日曜日

 

はい、どうも皆さま、わたくし、蜜柑でございます。

 

きょうは、日曜日。

3連休の、中日。

 

3連休の中日とはいっても、住み込みメイドのわたしには『3連休なんだ』という自覚があんまりないわけですけども。

 

…まあ、土日祝日は平日と比べてメイドの仕事をセーブしていますし、それなりのお休み気分があることはあります。

 

それで、日曜日ということで、いつもより少し遅く起床したんですが……。

 

× × ×

 

現在、お邸(やしき)が、もぬけの殻状態なんです。

 

わたし、ひとりだけ。

天涯孤独な住み込みメイドのわたしの、天涯孤独要素が、強まってしまうではないですか。

 

どうしてわたしをぼっちにさせるんですか……と言いたくもなりますが、お邸の面々にもしかるべき事情があるのはわかっていますし、不平をぐっとこらえます。

 

お嬢さまのアカ子さんは、模型店でアルバイト。

お父さんとお母さんも、どこへ行ったかは知りませんが、とにかくしかるべき用事で、朝のうちにお邸を出られてしまいました。

 

こうなると独りです。

邸(いえ)のなかがシーン、としているので、孤独感が増していきます。

 

とくに、アカ子さんがアルバイトに行ってしまって、遊び相手が居ない…というのが、こたえます。

 

春本番な気候だけが…救いです。

 

× × ×

 

「はぁ。

 なにをして過ごそうかな」

 

独りごとのひとつやふたつも出したくなりますよ。

そういうものです。

 

「家事を、するしかないのかしら」

 

ふたたび独りごとをつぶやいたあとで、わたしは掃除機を取りに行きます。

 

お掃除です。

 

もっとも、平日がんばっているので、日曜のお掃除は軽くで済みます。

短時間で掃除機をかけ終わってしまい、

『時間つぶしにもならなかった……』

と、こころのなかで嘆いてしまいます。

 

× × ×

 

ひとまず、じぶんの部屋に戻りました。

 

勉強机の前に座ります。

これは、小学校に入学したときに買っていただいた勉強机で――進学せず高校を卒業したいまとなっては、「勉強机」という名前も名ばかりなんですけども。

……まあ便宜上、「勉強机」としておくよりないでしょう。

 

『そういえば、この勉強机の引き出しのなかが、グチャグチャになってるんじゃなかろうか、ぜんぜん手入れをしてないし……』

 

ふと、わたしは、こう思いました。

 

じっくりと手入れをするのもいいんじゃないか……という気になって、左手で、左側の引き出しを開けます。

 

わっ、ヒドい。

相当なグチャりっぷりです。

 

さっそく、要るものと要らないものを仕分けようと、引き出しのなかをまさぐり始めました。

 

――そうしましたら。

そうしましたらば。

 

高校生時代の、あんまり見返したくない写真が……!

 

ドッキリとして、いっしゅん判断をためらいます。

あんまり見返したくないなら、不要のはず。

…でも、この写真を捨ててしまったら、『大事なもの』が逃げていくような気がして。

『大事なもの』っていうのはいったいどんなものなのか、じぶんでもハッキリとわかっていないんですけども。

踏ん切りが…つきません。捨てる踏ん切りが。

 

× × ×

 

ひとまず、写真は裏返しで引き出しの奥にしまっておくことに決めました。

 

高校時代の苦い思い出と密接にリンクしている写真で……過去が想い起こされ、つらい気分になってしまいます。

 

気分を紛らすために読み出した少女漫画雑誌も、イマイチ気分転換の役目を果たしてくれません。

 

 

…お嬢さまがアルバイトから帰ってくるのは、まだ先です。

 

若干こころを乱されたまま、独りぼっちで時間を潰さないといけないわけです。

 

つらい。これはつらい。

 

こんなとき……、通信機器の発達のありがたみを、感じます。

直接会えなくても、スマートフォンを使えば、だれかと「繋がり」を持てるのですから。

 

通話が、したくなってきました。

通話ができなければ、LINEでのやり取りでもいいんです。

とにかく、スマホ万歳です。万々歳です。

 

……スマホの電話帳を開きます。

高校時代同級生だった親友の望月恵……『メグ』に、電話をかける心づもりでした。

ところが。

ところが、電話帳をスクロールしていく指が、とある名前のところで、止まってしまったのです。

 

ムラサキくん

 

……この、6文字。

画面に表示される名前6文字に吸い寄せられるように、スマホを凝視してしまうわたし……。

 

画面をスクロールしていた指が、固まってしまったみたいになります。

無意識……のせい、なんでしょうか!? これ。

 

無意識に意識する、なんて、ヘンテコリンな言いかたですけども。

 

……しだいに、こういった自覚が、わたしを襲います。

『わたし、メグに電話しようとしたつもりなのに、ムラサキくんに電話したいという気持ちが勝(まさ)ってしまっている』

 

そういう気持ちが…勝ってしまって…それで……!

 

× × ×

 

ムラサキくん。

 

大学1年生の、わたしより背が低い、年下の男の子…。

 

とある縁から、彼が、このお邸(やしき)に出入りするようになって。

先日も、メイドとして、わたしは彼をもてなして。

 

でも、でも。

たぶん、もうとっくに、彼をおもてなしするだけでは、満足できなくなっていて。

 

距離の問題。

 

距離の問題。

それは、それは……!!