【愛の◯◯】未来へのケジメ

 

上映が終わって、某シネマコンプレックスから出てきた。

 

ぶらぶらと歩きながら、となりの濱野くんと、「反省会」を始める。

 

「どうだった? やっぱり、つまんなかったかしら? 上映終わって、シアターが明るくなったとき、濱野くん、仏頂面してるみたいだったから」

「……終始、場違い感があったから」

「そうなのね」

「アニメ映画だし……客層も、子ども連れが目立っていて」

プリキュアの映画とかよりはマシでしょ」

「まあ……プリキュアとかとは違うか。アニメでも」

「10代20代のカップルもけっこう居たわよ」

「き、きみはすごいね。観察力がある」

 

メルヘンチックなアニメーション映画だったという事実は、揺るぎない。

 

それでも。

 

「わたし――ああいうのが、好きなの。家でもよく観てるの、配信やブルーレイで」

「率直に、意外だ」

「やっぱり言われちゃった」

「そんなに、かわいいキャラクターが好きなのかい?」

「――好きで悪いかしら?」

「んん……」

「和むじゃないの」

「……まー、たしかに」

 

濱野くんだから、カミングアウトするのよ。

そこんとこは、理解してくれないと。

 

「どうやら濱野くんの好みには合わなかったようね」

「そ…そんなことない」

「言っていいのよ、合わなかったって。率直に、どうぞ?」

「…。おれは、おれはさ、徳山さんが満足してるなら、それでもうよかったから」

「…取り繕わなくたって。」

「ほんとうに……ほんとうに、それだけで、よかったんだよっ。きみ……ウットリした顔で、画面を見つめ続けてたから」

「あなた、そんなに上映中、よそ見ばっかりしてたの!?」

「ぐ……」

「バカね」

「……ああ。バカかもしれないな、おれは」

 

まったく。

 

 

話を少し、転換させる。

「映画代は、お祖父ちゃんからもらったの」

「きみの、お祖父さん?」

「そう。

 わたし、こう見えても、昔っからお祖父ちゃん子で――ずっと、可愛がられていて」

「それで、こころよく、映画代も出してくれたってわけか」

「孫娘が可愛いのよね」

「そりゃあ、なあ……」

「ときどき、からかわれたりするんだけどね」

「からかわれる?」

「きのうも、夕食のあとで、冷蔵庫にあるケーキを食べようとしたら、『ほんとにいいのか~?? 太っても、知らんぞお』って、満面の笑顔で言ってきて」

「……茶目っ気あるお祖父さんなんだな」

「そうね」

「にしても、きみは、夕食後にケーキを食べるのか」

「そこ!? いけないわけ!? 夕食後にケーキを食べたら罰金なんて法律、ないでしょっ」

「……」

 

はあ、と軽い嘆息のあとで、わたしは、

「わたし知ってるわよ。濱野くんが法学部に進むつもりだって」

「教えたっけ」

「相当前から情報入手してたのよ。なめないでよ」

「なめてはない…」

「夕食後にケーキを食べたら罰金なんて法律、世界中のどこにも存在しないわよね?」

「…なんでそれにこだわるのかな」

「法学部に進むであろう濱野くんには、もっと『法律とはなにか?』っていうことを日頃から意識し続けてほしいの。言うならば、法哲学……みたいな?」

 

こんどは、濱野くんが、はあ、と嘆息して、

「きみはどうするんだい」

「どうするというのは」

「進む、学部」

「学部? ――未定」

み、未定!?

「声が大きすぎるわよ、不用意ね」

 

……ここからは、真剣な、お話。

 

「濱野くん。あなたは、国立の結果がどうであろうと、浪人はしないのよね」

「……しない」

「わたしの志望学部が『未定』だということから、導き出される結論は??」

 

「……」

 

「大声出したと思ったら、こんどは黙りこくっちゃう」

 

「……」

 

「悪いクセね」

 

わざと、ピタッと立ち止まる。

彼の前を行っていたので、振り向く。

 

「わたし――もうすぐ、予備校生活だから」

 

「……だから、の続きを、はやく」

 

「……ケジメを。ケジメを、つけたいのよ」

 

「それって……。」

 

1年間、待って

 

彼にはつらいかもしれないけど。

つけるケジメはつける。

伝えるべき意志は、ちゃんと伝える。

 

「1年後、無事にわたしが予備校生活を脱却できたら。

 そのときは……また、こういうことをしましょうよ。

 待てるでしょ……? 待てないなんて、言わせない」

 

「待てないなんて、言わせない」。

わたしながら、わたしらしいことば。

 

× × ×

 

我慢して。

我慢してね、濱野くん。

 

必ず追いつくから。

 

必ず。