まだ夜が明けたばっかり。
階下(した)のリビングに行くと、アツマくんがTBSの某番組を視聴していた。
「珍しく早起きね」
「『珍しく』は余計だ」
「エーッ」
「……。
もうちょいしたら、朝飯作るから」
そっか。
きょうの朝食当番、アツマくんだったわよね。
……朝食と昼食は、ほかのお邸(やしき)メンバーが作ってくれるんだけど。
「アツマくん。」
「ん?? なんぞ」
「夕食当番は、未定だったでしょ?」
「…未定だったが」
「夕食、わたしが作るわ」
「……マジかよ」
「この前言ったでしょう。『わたしもそろそろ、家事に復帰できると思う』って。きょうからお料理に復帰したいのよ」
「……」
「その沈黙はなに」
「愛。おまえが……料理のカンを忘れてないか、心配で」
「心配しないでっ」
「む」
「これは約束よ。余計な心配は、しないこと」
「むむぅ…」
「まだ不安視してるの!? 大丈夫よ。利比古みたいに、スパゲッティ茹でるときにコショウを振ったりなんかしないから」
やがて、
『わかったよ』
と言わんばかりの顔になる、彼。
「――決まりね」
そう言って、アツマくんの顔をなおも見続け、
「あと。
明日(あした)――大学の学生会館に行って、サークルに久々に顔を出してみようと思う」
「――マジで」
「お料理とは別の意味で、気がかりなの??」
「――まあ、講義出るんじゃなくて、サークルなのなら」
「『いいんじゃねーの?』と」
「そういうこった」
× × ×
大学にアツマくんは行った。
待っててね。
とびきりのお料理、作ってあげるから。
× × ×
昼下がり。
ダイニング・キッチンに行き、冷蔵庫の中を見た。
たくさんの食材が敷き詰められていて、目移りする。
なんでも作られそう――なんだけど。
「わたし、ハンバーグが食べたい気分。
――決まりね、主菜は」
× × ×
ハンバーグのタネをこねていたら、ダイニング・キッチンに流(ながる)さんがやって来た。
エプロンを身にまとっているわたしにビックリして、
「愛ちゃん――料理、してるの?!?!」
「はい、してますよー」
「なんでまた」
「えーーーっ」
「だ、だって、愛ちゃん、病み上がり――」
「もう大丈夫ですから。お料理ぐらい、こなせますから」
「――ほんとうに!?」
もーーっ。
「そんなにビックリしちゃ、やーですよ」
「……」
「こんな早い時間に仕事から流さんが帰ってくるほうが、よっぽどビックリです」
「……早めに帰ってもよかったんだ、きょうは」
「そんなに融通きくんですか?? 大学の事務って」
「……きくんだよ」
クスッ、と笑ってしまうわたし。
ゴメンナサイ、流さん。
× × ×
そして、
あすかちゃんが帰ってきて、
利比古も帰ってきて、
明日美子さんもお昼寝から起きてきて、
……アツマくんも帰ってきて。
× × ×
いい匂いが立ちのぼるダイニングテーブル。
わたしは、勢揃いのみんなを見回して。
「きょうの夕食から、お料理当番に復帰しようと思います。
心配は、ご無用で。
……頑張りますから。
いままで休んでたぶんも。
恩返し、したくって。
恩返しっていうのは――わたしが落ち込んでたあいだ、ごはんを作ってくれていた、みんなのために。
――だから、よろしくね」