「あすかさんあすかさん」
「なに? 利比古くん」
「知ってましたか」
「……なにを」
「山梨県には、民放テレビ局が、2局しかないんですよ」
「……それが?」
「日テレ系の山梨放送と、TBS系のテレビ山梨しかないんです」
「……」
「どうしたんですか。憐れむような顔になって」
「……」
× × ×
「日テレとTBSしか観られないんだよね? フジやテレ朝やテレ東は、いっさい観られないってこと?」
「いえ、ケーブルテレビに入っていれば、フジテレビやテレビ朝日やテレビ東京を直接視聴できるみたいです」
「なーんだ。民放テレビ局が2つしかないからって、観られる番組が少ないわけじゃないんじゃん」
「まあ、そういうことですね」
「…。だったら、わざわざ、『山梨県に民放テレビ局が2つしかない』って言ってきた意味、あったわけ??」
「……」
「としひこくーん、そこで押し黙られると、困っちゃうんだけどなー」
「……あすかさんは、エフエム富士ってご存知ですか」
「あー、知ってるよ? 山梨県から電波が飛んでるんだよね? わりと聴く」
「そうですか……」
「無理やりエフエム富士に話題を持っていこうとしても、無駄だったね」
「……はい」
「もっと精進しなきゃ。こんなことじゃ、放送博士になれないよ」
「おっしゃるとおり……」
× × ×
「――あすかさん、ご存知でしたか? 日本にも、『MTV』があるんですよ」
「まだテレビ局トークがしたいわけ!? しつこいよ」
「う……。すみません」
「『三重テレビが略すとMTV』的な話なんでしょ。きっと」
「ど、どうしてぼくの話を先読みできるんですか……」
「うろたえないでよ。まったくもうほんとに」
「……すごいですね、あすかさんは」
「どこがどうすごいの」
「それは、文字数の都合で、割愛せざるを得なくって……」
「ああ、短縮版なのね? きょう」
「はい。たぶん、日曜日だからだと思います」
「日曜日なこと、そんなに関係ある??」
「あるんじゃないでしょうか。…とにかく、1200字前後で」
「1200ってのは、なんの基準なの」
「…」
「あああもうっ!! 利比古くんも管理人さんも、もっとちゃんとしてよ!!!」
「あすかさん…」
「プイッ」
「あすかさん。こっち向いてください。あと、『プイッ』を声に出すのも自重してください」
「いろいろと、ムカついてるの、わたし」
「……ムカついてる、だけですか?」
「えっ」
「その……さいきんの、あすかさんの様子、なんか違和感があって……。さいきんというのは、具体的には、3月1日の卒業式が終わった、あとから……。」
「と、としひこくんがからむ、もんだいじゃないよ」
「――テンパってませんか??
いま、あすかさんが言ったこと、文字起こしすると、ぜんぶひらがなになりそうな……」
「も、もんだいなんか、なにもないんだよ!!」
「――テンパってるんですね」