下関くんに告白されてから、2日経った……。
× × ×
午前11時前、いっしょにお茶しない? と、おねーさんに誘われたので、ダイニングに下りた。
正面に、おねーさん。
いつもキレイなおねーさんが、いつも以上にキレイに見えて、動揺で心拍数が上がる。
なんでだろう……。
おねーさんはもちろんブラックコーヒーで、わたしはレモンティー。
『温かい紅茶を飲めば、落ち着いてくるだろうか』
そういったんは思ったけど、紅茶って、たっぷりとカフェインが入ってたんだった。
「ひな祭りだねぇ。あすかちゃん」
「え!? は、はい、そうでしたよね……」
「どうして噛んだの」
笑いながら彼女が言う。
彼女のその笑顔が、わたしよりも1000倍美人顔で……なにも言えなくなってしまう。
5分経過。
「こんどは沈黙しちゃったかー」
微笑を絶やさず、
「沈黙のひな祭りだなー、あすかちゃん」
と少しボケる、おねーさん。
さすがの、余裕――。
でも、わたしも、徐々に勇気を絞り出していって、
それで、
「あのっ」
「?」
「あのっおねーさんっ、思い切ってわたし言うんですけど」
「なにを~?」
「その……ですね。
おねーさん、は。
片思いしてる男の子の気持ちって、想像したこと、ありますか……?」
「――どうしてそんなこと、訊くの?」
穏やかに尋ねるおねーさんに、
「……おねーさん、昔っから文学少女で、小説の恋愛描写とか、たくさん知ってるはずだから。……だから、片思いの男の子の気持ちだって、解っちゃうのかもしれないって、そう思って、ですね……」
「ふうん」
視線を合わせて、おねーさんは「ふうん」とだけ言った。
なんだか、口元とか……なにかに気がついたような、そんな口元に、見えてきた……。
「男の子に片思いしたことなら、あるんだけど」
「それって……お兄ちゃんに対して、ですよね」
「そう。アツマくんと両思いになる、前の段階」
彼女は片肘をテーブルについて、
「わたしは女の子だからねえ。男の子じゃないのよ、残念ながら」
「それは、わたしも、おんなじです」
「――あすかちゃんと、きっと、いっしょなのよ。恋する男の子の心理なんて、知りたくなっても、うまくいかない」
「……」
「がっかりさせちゃったか」
「い、いえ、ぜんぜん」
「……無理しなくっても、いいから」
「無理なんか…」
「あら、そう」
それから、おねーさんは、明るい笑いで、唐突の唐突に、
「利比古には訊かないほうがいいわよ」
「え……!? どういう、いみですか……??」
「つまり。
『片思いしてる男の子の心理について、男子高校生である利比古に訊いたって、なんの得にもならない』
ってこと。
だって、あの子、女子に片思いなんか、した経験ゼロなんだもの」
「……把握しました、けど。
突拍子もなく、利比古くんの名前出すから、心臓が大ジャンプしちゃったじゃないですか」
「ごめん」
「……」
「怒ってる?」
「いいえ。おねーさんに怒ったりなんかしません」
「ほんとかな」
「だ、だってっ、もうおねーさんと大ゲンカはコリゴリだもんっ」
「――わかった。ごめんね」
そんなに、謝ってほしく、ない。
「おねーさん。――片思いの男の子うんぬんから、離れてもいいですか」
「もちろん♫」
「じゃあ。
……こっちも、唐突に、言っちゃうんですけど。
こんど、わたしたちのバンドの、高校卒業記念ライブがあるんです。
で、おねーさんを、ライブハウスに招待しようと思っていまして……」
「あらー、すてきー♫」
わたしは軽い咳払いのあとで、
「これはブログの読者様向けの発言なんですが、当ブログは完全なるフィクションであります。たぶんきっと」
「そこらへんは、あすかちゃん、チャッカリしてるよね」
「してるに決まってますっ」
「そっかそっかー」
そう。
卒業記念ライブが……あるのだ。
密かに考えてるのは、
『キーボードで、おねーさんもステージに上がってくれないかな?』
ということ。
果たして、この目論見は……。