【愛の◯◯】ミヤジをいじくるのが面白すぎて国語の勉強を教えてあげたくなってきた☆

 

放課後。

いまだ部長であるスポーツ新聞部の活動教室に、まっしぐらに向かっていく。

 

加賀くんを軽くおちょくってから、取材へ。

 

× × ×

 

さて。

ふたたび外に出たはいいものの。

 

「…どの運動部を取材しよっかな」

 

5分間考えた。

 

「…バドだ。バドにしよう。バドミントン部に行ってみよう」

 

決めて、体育館へ。

 

× × ×

 

寒空の下を、体育館へと向かってわたしは歩く。

 

体育館が近づいてきたときだった。

 

前方に、わたしをさえぎるようにして、男子生徒の立ち姿。

 

……本人に、わたしをさえぎる意図はなかったにしても、『やっかいな男子に出会ってしまったセンサー』が、過敏に反応しまくっているという事実は否定できない。

 

渡り廊下の柱に……児島くんが、背中を預けている。

 

「なんでここにいるの。児島くん」

「……あすかこそ。」

「わたしはバド部に取材に行くの」

「……おまえ、まだ部活やめてなかったのかよ」

「悪い?」

 

「悪い?」とトゲトゲしく言って、トゲトゲしく児島くんを見る。

 

すると、

「……自由だな、おまえは」

とやや意外な反応。

 

「よっぽど児島くんのほうが自由でしょ」

と言ってみると、

「んなことねーよ……」

と否定。

 

なんか、ヘンだ。

停学処分前のおちゃらけたテンションは、どこに行っちゃったのか。

 

「なんだか、沈んでるみたいだね、児島くん」

彼は黙って下を向いた。

「停学処分が、まだこたえてるの?」

「……」

「あのさぁ」

「……」

「わたし、児島くんのこれからのこと、ほんのちょっとだけ心配してるんだけど」

「……」

「これからどうするの? 大学、受けるの?」

「……」

視線を逸らし気味に、

「ごめん。……答えられない」

 

× × ×

 

答え「られない」のか、答え「たくない」のか。

ハッキリしてほしかった気もあったけど、問い詰めたりはしなかった。

 

彼、4月から、どうするのかな……マジで。

 

× × ×

 

児島くんの今後のことをあたまの片隅に置きつつ、バド部にインタビューをした。

 

体育館を出る。

活動教室に戻ろうと、歩いていく。

 

その道中。

図書館がある方角から、ひとりの男子生徒が、こちらに向かって歩いてくる。

またもや、見覚えのある男子。

 

「――ミヤジじゃん!」

 

呼びかけるわたし。

立ち止まるミヤジ。

 

『うげ』と言っているような口の動きに見えたのは、見逃してあげよう。

 

「児島くんとエンカウントしたのが気にならなくなってきたと思ったら、こんどはミヤジとエンカウントしちゃった」

「エンカウントエンカウントって、口ぐせか? あすかの」

「――そんなにしょっちゅうエンカウントって言ってる?」

「そんな気もしてる」

「ふーーーん」

ミヤジのカバンを凝視しまくるわたし。

「双眼鏡は? 双眼鏡は持ってきてないの、きょうは」

コクンと首を縦に振るミヤジ。

「なんで?? 野鳥がキライになっちゃったの??」

「んなわけあるかっ」

即座に否定し、

「受験が近いから、バードウォッチングは自粛中なんだっ」

 

マジっ

 

「……なんでそんな大げさにビックリするんだよ。両手を上げなくたっていいだろ……」

「ゴメンゴメン、バンザイポーズは、やりすぎだった」

「推薦合格組の余裕のあらわれか」

「そうともいう」

「僕が温厚なタチでよかったな」

「ほんとにねえ」

「――僕だって、そこそこ入試対策がんばらないといけないんだよっ。あんまり難易度は高くないにしても…」

「二流大学だよね。ハッキリ言って」

ハッキリ言いすぎだっ!!

「ゴメンってばあ」

「…人によっては、暴れてるところだぞ」

「あのね、」

「…?」

「わたし、ミヤジとなかよしだから。だから、あえて、『二流大学』なんていう言いかたをしたの」

「理屈もなにもないよな……? それ」

「えへへへん」

「あすか……おまえは、もう少しロジカルな人間だと思ってたのに」

「お、『ロジカル』なんてことば、知ってたんだね。超意外」

「超をつけるな」

 

――楽しくなってきちゃって、

「ねえねえ、さっきまで、図書館で勉強してたんでしょ?」

「してたよ?」

楽しい楽しい含み笑いで……わたしは、

延長戦

というワードを……ぶつけてみる。

「はあ??」

「勉強の、延長戦だよ、ミヤジくんっ!!」

「そ、それ、どういう……」

「1時間後に、図書館の入り口に来て」

「???」

「どっかのお店で、わたしといっしょに勉強しよーよ☆」

「!?!?」

「なに混乱してんの!! わたし、国語教えてあげようと思ってるのに。国語の偏差値、15は上がると思うよ!?」

「へ……偏差値が上がる上がらない以前の問題だぁっ」

 

あー。

 

「まあ、わたしとミヤジで勉強してる光景は、傍(ハタ)から見れば、彼女彼氏な光景に見えちゃうのかもねえ」

「誤解…されないほうが…おかしいまで…あると思わないか!?」

ダイジョーブ博士だよ。わたし、そんな気ぜんぜんないから☆

 

「あすか……」

「なぁに」

「女子の冷酷さって、すごいんだな」

「いまさらだねーっ」