【愛の◯◯】揺らいだら、受け止めてあげる。親友なんだから。

 

「あーっ! 徳山さんだぁ」

「あすかさん……」

「奇遇だねぇ」

「き、奇遇ね」

「放課後、ずっとここにいたの? 徳山さん」

「え、ええ、この周りを、ブラブラと」

「…ヒマなの?」

「いいえ……ヒマというわけでは、ないんだけど」

「だよねぇ。徳山さん、一般受験組だし」

「……」

「あれっ」

「……」

「そんなに、うつむかなくたって」

「……ごめんなさい」

「顔が上がった。よかった」

「……」

 

「ねえねえ、となり、座ってもいいかな?」

「え!?」

「ダメかな」

「……べ、べつに構わないけど、あすかさんの、お好きなように」

「やった」

 

「――やっぱ、男子のとなりに座るより、女子のとなりに座るほうが、気楽だな」

「……あすかさん」

「なあに?」

「あなた…あるのね、ベンチで、男子のとなりに座った経験とか」

「あるある。というか、きのう座った」

「きのう!? 学校で!?」

「ウン」

「…大胆ね」

「下関くんのとなりに座った」

 

ヒビキの!?!?

 

「おー、響き渡る大声だ」

「どういうシチュエーションだったのよ、それ」

「んー? 下関くん、テンション変だったから、となりに座って、様子を見てあげたほうがいいなー、って」

「そこまで……ヒビキのことが、気になったりするわけ!? あなたは」

「気になる、ってのは?」

「その……。

 いま、周りにだれも居ないから言うけど、ヒビキのことを、異性、として意識しているとか」

まっさかぁ~~

「……そういうわけでは、なさそうね。あなたの表情、わかりやすくて、助かるわ」

「意識してるわけ、ないない!」

「……裏表のない性格っていいわね」

 

「男子の話題、引っ張ってもいい?」

「ふ…不穏なんだけど」

「ウフフ」

「ニヤつかないでよ、不安になるでしょっ」

「わたしは攻めるよ」

「あ……あすかさんが、攻めてきたら、わたし、守りきれる自信、ない」

「でも、せっかくだし」

「もしかして――」

「ん??」

「わたしと、濱野くんとの関係について、さぐりを入れたかったり?」

「ビンゴ!!」

「――手短にお願い」

「じゃあ、いきなり訊くけど、もうデートは経験済みなの??

 

「と、と、突拍子もないこと言わないでっ!!」

 

「そんなに――突拍子、ないかなあ」

「ない。ないからっ。

 それと……デートの経験も、あるわけない」

「そーなんだあ。

 だったら…。

 放課後、手をつないで下校するのは、経験済み?」

 

そ、そんなみっともないこと、できるわけないじゃない!!!

 

「みっともない、かなあ?」

 

× × ×

 

徳山さんとの、楽しい会話。

 

わたしから、一方的に攻めていく感じになっちゃってる面もありはするけど。

 

徳山さんと話していると、時間があっという間に経ち、だんだん空も薄暗くなってくる。

 

 

……あれっ。

 

空も薄暗くなってきてるけど、徳山さんの表情も、薄暗くなってきてるような。

 

ナーバス状態?

 

「どうしたの?

 濱野くん関連で、わたしが突っついたのが、よくなかった?」

「……そんなに暗い顔に見えるかしら、わたしの顔」

「見える。せっかくわたしより美人なんだから、もっと元気を出してほしい」

 

顔、逸らしちゃった。

余計なこと、言い過ぎたのかも。

 

顔を逸らしたまま、やにわに彼女は立ち上がる。

 

そして、

「濱野くんとのことは、深刻にとらえているだとか、そういうのは、まったくないから」

と言う。

 

わたしは、優しく、

「ほかに、悩みごとがあったりしない? この際だから、もし、抱えてる悩みがあったりしたなら…打ち明けてほしいな。

 わたしの大事な友だちなんだもん、徳山さんは」

 

 

なにも言わず、徳山さんは、立ち尽くす…。

 

 

デリケートになってるんだな、彼女。

 

ここは、『ねえ、言ってごらんよ』とか、彼女を急き立てるよりも。

 

 

座ったまま、

彼女の、デリケートな背中を、

ぽーん、と、押してみる。

 

驚いて、彼女は振り向く。

振り向いてから、弱った顔で、弱った声で、

「なんのつもりで……背中を、押したの」

 

わたしは答える。

「母性本能、かな。」

 

「母性本能って……。わたし、よくわからない……。」

 

「わからなくたっていいよ。

 徳山さんに、知ってほしいのは、

 あなたが、悩んだり、落ち込んだりしていたら、

 わたしが、いつでも、背中を押して、励ましてあげるってこと。

 ……ねっ?」

 

 

異性との関わりで、戸惑ったり。

将来についてのことで、立ち止まったり。

 

……そんなふうに、徳山さんが、揺れることがあったなら、

わたしは、全力で、受け止めてあげたい。