あ。
どうも。
わたくし、久里香(くりか)と申します。
……ご存知ありませんでしょうか?
まあ、久方ぶりの登場ですし、元来レアキャラですし、わたしが語り手を担当するのも本邦初なので、ご存知ないのもしょうがないのかもしれません。
……久里香(くりか)という者です。繰り返しになりますが。
えー、皆さんおなじみの、戸部あすかの、昔なじみの親友なんです。
あすかとは、通ってる高校は違うんですけど、そんなことは関係なく、ずーっと仲良しなわけですよ。
だから、あすかが「会わない?」と言ってきたら、よほどのことがない限り、会いに行ってあげるわけなんです。
――「日曜にカフェに行きたい」と、あすかに誘われまして。
もちろん承諾したんですけど。
『相談したいことがあって』
という、あすかのLINEの文面から、不穏な響きをわたしは感じ取ったわけでして……。
× × ×
あすか邸は東京都の西のほうにあるのに、都心のカフェに誘ってきた。
立地が関係あるかどうかは知らないけど、値段お高めのカフェだ。
ま、いいんだけどさ。
窓際の席。
わたしは本日のコーヒーを頼み、あすかはホットカフェオレを頼んだ。
カフェオレのなかに、どばっとスティックシュガーを入れまくるあすか。
すごく甘そう。
「なにか、食べる?」
わたしは言った。
サービス精神。
……言ったはいいけど、あすかがポカーンとしている。おいおい。
「わたしのお金で、食べさせてあげるけど――」
と言い足したのだが、
「ごめん。食欲沸かない。お心づかいだけ、受け取っておく」
と、あすかは元気なさげに言う。
ふぅむ……。
ここは、とりあえず、
「あすか。あらためて、大学合格おめでとう」
と祝福しておく。
「久里香はもう何度も祝ってくれてるじゃん」
と言いながらも、
「でも、ありがとう」
とあすかは感謝。
「これから、なんだよね。……久里香は」
「そうだよ。一般入試組。共通試験、迫ってるよ」
「大変だ」
「そうかなあ?」
「く、久里香!?」
「大変ばかりじゃない気もするけど」
「な、なにその余裕、どこから来るの」
「んー。わたしは、マイペース、って感じ」
「不安、とかは……」
「正直、あまりないんだ」
『先に合格したアンタのほうが不安顔で、どーすんのっ』と、こころのなかでツッコミを入れる。やれやれ。
「ねえ、あすか」
「……」
「アンタ、わたしの受験の気づかいをするために、カフェに誘ったわけじゃないんでしょ」
「……うん」
うつむき気味にカフェオレを口に運んでいく。
カップを置く。
置いたあとも、うつむき続け。
うーむ。これは、深刻。
「第一の目的は、親友なるわたしへの、相談なんでしょ?」
コクン、と小さなうなずき。
「アンタの邸(いえ)からかけ離れた場所に呼んだのってさあ……」
わたしはいったんことばを切り、意図的にあすかの顔をしげしげと眺めて、
「……よっぽどの相談ごと、だったからなんでしょ」
あすかは、心持ち、目線を上げ、
「――なんでわかるの」
「バレバレだよ、最初から。――それに、アンタ、きょうぜんぜん笑ってないし。笑ってないってことは、笑えないことがあって、それを抱え続けてるっていう、証拠」
半開きのあすかの口。
「打ち明けてごらんなさいよ、あすか。重い悩みなんでしょ? たぶん」
……思いつめた表情で、まっすぐにわたしを見る。
……しばらくしてから、
「おねーさんと、戦争になった」
と、打ち明けの……あすか。
『おねーさん』
羽田愛さんのことだ。
あすかの同居人で、あすかにとってまさに、姉のような存在のお人。
「戦争? ケンカ??」
「……今回のケンカは、いままでにないレベルで。だから、戦争って言ったの。そう、戦争。とっても冷たい戦争」
「冷たいんだ」
「冷え切っちゃった。わたしと、おねーさん」
「あすか。もっと、詳しく」
× × ×
ひとしきり説明を聴いた。
なるほど……ギクシャクが、長引いちゃってるわけね。
お互い無言のままお風呂にいっしょに入ったとか……微笑ましい要素もあったけれども。
「――元に戻りたいよね?」
「戻りたい。でも、どうするべきか、わかんないの。泥沼の2文字」
「アンタのお兄さんに頼ってごらんよ。双方のことをよく理解してるんじゃんよ」
――お兄さんに頼るのがいかにも恥ずかしげに、首を横に振りつつ、「無理……」と言うあすか。
ずいぶん弱ってる。
「じゃ、利比古くんに頼ってみるのは? 愛さんの弟さんなら、アンタらふたりのあいだを取りなせそうじゃない? 亀裂、埋めてくれそう」
「彼は、もっと無理……。頼るの、悪いし、それ以上に、頼っちゃったら『負け』だと思ってて」
「――負けるって、だれに? 愛さんと利比古くんの、きょうだいに??」
「……どちらかというと、利比古くんのほうに、かな」
へえー。
「そんなに――利比古くんに『甘える』のが、コワいんだ」
「甘える!?!? な、な、なに言うの久里香っ! 利比古くんになんか甘えないよっ。というか、甘えるとか、そういう対象じゃないから、彼はっ。……突拍子もないこと言わないでよっ。もう」
「怒ったぁ?」
「……少し。」
「ようやく……あすか、ボルテージが上がってきた感じだね」
「……なんなのよ、ボルテージって。」
「お。いまの、愛さんっぽい言いかた。ツンデレ。」
「……」