『こんにちは、創介くん』
『はいどうも、葉山さん』
『さっそく、秋の天皇賞の振り返りをしたいところなんだけど……』
『固かったですねえ~~!!』
『固かったねぇ~~!! 激安』
『ほんとうに16頭立ての競馬なのかしらね』
『3強の実力が抜けていたってことなんでしょう。サンレイポケットは、どうがんばっても4着止まりだっただろうし』
『鮫島くん、最高に上手く乗ってたのにね。コントレイルの内に入って』
『渾身の騎乗で、たぶんメイチ駆(が)けで、それでも前の3頭はとうてい抜けなさそうでしたからねえ』
『何回やっても、この3頭だったかな』
『絶望的なまでに、この3頭のレースでしたよね……』
『――まあ、わたしたちは、4着のサンレイポケットも5着のヒシイグアスも、あんまり評価していなかったわけだけど』
『惜しくもなんともなかったんですよね』
『創介くん、あなたは6着馬が本命だったでしょう?』
『はい。ポタジェくん』
『すごいわよね』
『な、なにがすごいんですか』
『川田の乗り馬を、ためらいなく本命にできるところが』
『と、言いますと……』
『……わたし、川田将雅との馬券の相性がサイアクなのよ』
『き、嫌いなんですか、川田』
『川田将雅という騎手が好きか嫌いかはべつとして、上手いか下手かもべつとして』
『は……はい』
『馬券的な相性がね……』
『不穏な顔つきになってませんか……? 葉山さん』
『あら、わたしそんなコワい顔になってた?』
『……騎手に関する話題は、デリケートで、もつれるとややこしいことになりますからね、はい』
『ちょっとはいいじゃないの、騎手との馬券的相性ぐらい』
『逆に、葉山さんにとって、好相性な騎手は?』
『ん~っ、松山くんとか? 有馬記念でサラキア持ってきてくれたし』
『松山『くん』なんですね』
『くん付け、ダメかなぁ』
『31歳ですからね、彼』
『そうは見えないのよねー。公式の顔写真とか、さ』
『……たしかに、20代前半のお兄ちゃんでもおかしくはない』
『なんか穏やかで柔らかい印象受けるの。川田の写真とは大違いね』
『……なぜわざわざ川田の写真を引き合いに』
『――ところで、葉山さんは、カレンブーケドール本命でしたよね? てっきり、ぼく、カレンブーケドールの相手にグランアレグリアを選んで、牝馬2頭のワイドや馬連で勝負するのかな、とか思っていたんですけど』
『うーん、グランアレグリアちゃんはねぇ、安田記念負けて、微妙に歯車狂っちゃった感じがして……喉の手術もしたんでしょ? 彼女』
『それでも葉山さんは、強い5歳牝馬2騎で押し通すと思ってました』
『――『流れ』ってやつよ』
『流れ、ですか』
『わたしはけっきょく、カレンブーケドールとエフフォーリアのワイド1点勝負で外したんだけど――』
『はい』
『流れ、っていうのはね、横山武史くんのこと』
『あー、つまり……前週の菊花賞からの、流れ』
『そう! タイトルホルダー逃げ切り圧勝の余勢を駆って、ってことよ。連チャンあるわよね、って』
『――なぜだか、『連チャン』ということばが、葉山さんによく似合ってる気がします』
『あらあら』
『――ぼくは、マージャンも、パチンコパチスロも、いっさい手を出さずに生きてきて。もっと言うと、公営競技以外には、手を染めない主義で』
『清廉潔白なのね』
『ほめられてるんですか? ぼく』
『ええ。ほめてるわよ、わたし』
『……』
『それが――あなたの、『照れくさい』っていう仕草なのね』
『わかりますか……?』
『わかるわよー、モニター越しでも』
『……まあ、タイトルホルダーが菊花賞5馬身ちぎったけど、その2馬身半前ぐらいにエフフォーリアがいると思えば……世代レベルも高いし』
『つまりは――そういうことなのよね』
『そういうことなんですよね』
『だから、ほかの2強を完封しても、合点がいくの』
『はい……』
『創介くん』
『なっなんでしょう』
『なんだか、声が日和(ひよ)ってるわよ』
『日和ってる?? 声が??』
『気後れ、してない? ……わたしがいきなりあなたをほめ出したからかしら』
『清廉潔白って、ほめてくれたのは……嬉しかったですけど』
『嬉しいけど、恥ずかしいのね』
『……』
『ゴメンね♫』
『JBCで取り返しましょうね♫』
『……』
『約束よ♫』
『……取り返せるかなあ』