【愛の◯◯】ポニーテールのお姉さんは、音楽『5』

 

おじさんのお店でのアルバイトも、だいぶ慣れた。

 

うまくいくこともあるし、うまくいかないこともある。

 

おじさんと、八重子が、見守ってくれてるから――大丈夫。

 

× × ×

 

ちょっとしたミスをして、八重子に叱られた。

「次からはしっかりしないと、だよ。葉山」

「わかった、八重子。叱ってくれて、ありがとう」

「こ、ここで感謝されると……わたし、照れるよっ」

「だってほんとうに感謝してるんだもの」

「わ、わたしが叱ったから……凹(へこ)んじゃうかもしれない、とか思ってたら」

「わたしそんなにヤワじゃないの」

「……そうですか」

「八重子が、わたしをちゃんと見てくれてることがわかって、叱られても、むしろ、うれしい」

 

照れてる、照れてる。

うつむきがちで、テレテレしちゃってる♫

 

入り口ドアの、鐘の音。

お客さん入店の合図だ。

 

「――行ってくるね。八重子」

「ちょちょっ、葉山っ」

「働くよ! わたし」

 

じぶんで言うのも……だけど、

わたし、頭がいいほうだから、

八重子に注意されたことは――簡単には、忘れない。

 

× × ×

 

 

「ふぅ。スキルアップできた感、がある」

「……なに? それ」

「八重子に注意されたことをこころに留(と)めて、学習。即、スキルアップ

「ふぅん……」

「もっとノッてきてもいいのにー」

「はいはい」

「『はいはい』、じゃないよーっ」

「葉山……」

「ん~?」

「あんたが元気で、なによりだわ」

「でしょ~っ♫」

「歌でも歌いそうなテンションね」

 

歌!

 

「――知ってる八重子!? わたし、けっこう歌、上手いのよ」

自画自賛モードですか、葉山さん」

「うん」

 

まったく……と言いたそうな顔をしながらも、

 

「知ってたから――あんたの歌唱力の高さぐらい」

うそっ!!

「ヘンな大声上げないっ」

「アッごめん」

 

 

…ホールは、もぬけのから状態。

まったくお客さんがやって来ず、開店休業に限りなく近い――そんな時間帯だ。

だから、雑務をしながら、こうしてふたり、雑談することもできる、というわけ。

 

「――高等部のときにさ、」

「八重子?」

「カラオケ行った記憶あるんだよね。わたしとあんたと小泉の3人で」

うそっ!?

「――葉山あんた、『うそっ』が口癖??」

「――そうともいう」

 

ハァ、とため息をついて、

「葉山は記憶してないわけ」

と訊いてくる八重子。

 

う~~ん、

 

「残念ながら――思い出せない」

「葉山、かしこいのに」

「記憶にないの……ごめんね」

「そのカラオケは――、

 葉山の歌の上手さだけが、印象に残ってて」

「もっとなにか憶えてないの? 小泉がどうしようもない選曲してたとか」

「あんたの歌唱力の前では、小泉の影も薄かったってことよ」

 

――そんなこと、あったかな、ホントに。

――あったのかも、しれないな。

 

 

おじさんが戻ってきた。

 

「ごめんおじさん、お客さんぜんぜん来ないから、八重子とふたりだけの世界に入り込んでた」

「ふたりだけの世界って――あのねぇ、葉山」

「八重子とふたりきりだと、おしゃべりが止まらなくって」

 

あっはっは、とおじさんは笑う。

 

「すみません、マスター……捗(はかど)るのは、雑談ばっかりでした」

 

恐縮の八重子。

 

「ぜんぜんいいんだよ。ふたりだと、むつみちゃんも、さみしくならない」

 

そのとおり! おじさん。

 

 

「――あっ。そうだ」

 

八重子、どうしたのかな。

なにかに気づいたみたいに。

 

「『彼女』は――やってきますかね? 今夜」

 

あーっ。

なるほどなるほど。

 

「ポニーテールの、『彼女』かい?」

訊き返すおじさん。

「はい」

うなずきながら答える八重子。

 

「――どうかな。フタを開けてみないと、わかんないなあ」

 

思わず、

「フタを開ける、って。おじさぁん」

苦笑しながら、ツッコミを入れてしまうわたし。

 

「転職活動も立て込んできてるのかもしれないし――」

 

と、おじさんが言った瞬間。

 

入り口ドアの鐘が、カラカラカラン、と鳴った。

 

 

× × ×

 

 

今夜は、『彼女』のおとなりに、八重子が。

 

『彼女』の手には中ジョッキ。

八重子の手にも中ジョッキ。

 

飲み相手がいないのもさみしかろう…という、八重子の心配りだ。

…否、正確には、わたしと八重子とおじさん、3人がかりでの、心配りである。

 

わたしはアルコールNGだから、八重子が『彼女』に寄り添うようにして、飲んでいる。

 

中ジョッキをぐびぐび飲んでいくたび、『彼女』のポニーテールの角度が変わる。

 

ポニーテールに、眼を吸い寄せられているわたし。

ふと、思ってしまう。

 

『ポニーテールが、ほどけたら、いったい、どんな感じになるんだろう……』

 

……いや。

『どんな感じ』って、やらしい、わたし。

なに、年上のお姉さんのポニーテール絡みで、いやらしい妄想しちゃってるの、わたし。

よくないよくない……!

 

 

「――きょうは口数少ないね? 葉山さん」

 

あ、

ポニーテールお姉さんのご指摘をいただいてしまった。

よくない。

 

「わたしと八重(やえ)ちゃんばっかりしゃべってるよ」

 

わたしだけでなく八重子にもすっかり馴染んだ彼女。

いつの間にか、『八重ちゃん』と、気さくに呼ぶようになっていた。

……なのならば、わたしに対する呼びかたが、『葉山さん』で据え置きなのは、なにゆえ!?

 

「考えごと――、しちゃってて」

わたしは、釈明。

 

「だったら、あなたの歌唱力に関する話題も、聴こえてなかったみたいねぇ」

 

えっいつのまに。

思わずわたしは、八重子を凝視。

 

てへへ……と言わんばかりの顔。

こころなしか、ほっぺたに赤み。

もしや、生ビール効果で……饒舌(じょうぜつ)に??

 

いいんだけど。

いいんだけど、さあー。

 

「歌上手いんだってね~、葉山さん~」

 

「……」

 

謙遜のことばが思い当たらず、無言になっちゃう。

 

「音楽の成績、良かったんでしょ?」

 

「あ、はい……」

 

「葉山が成績良かったのは、音楽だけじゃないんですよ~」

 

八重子っ!

「うわぁ、葉山」

「いまの八重子、お調子者っ!!」

「えー、なんかマズいこと言ってるー?? あんたが優等生だってアピールしてんだから、べつに…」

「わ、た、し、が、恥ずかしいのっ」

 

八重子が飲み干してしまった中ジョッキを、手早く回収する。

 

「おじさーん」

カウンターに向かって呼びかけ、

「お冷や3人分」

 

「えええ、お冷やが早いよっ葉山」

「八重子、めっ!」

「怒らなくてもいいのにぃ」

「先制リーチ!」

「……へ」

「だから、先制リーチ!!」

「……マージャンとか、なんか関係ある??」

 

あるのっ。

わたしのなかでは。

 

 

「…よーやくノッてきた感じだねえ、葉山さんも」

「あっ、はい…」

 

相づちのわたしに、真っ正面から、微笑みかけてくる。

その、

ポニーテールらしからぬ、

とってもとっても麗(うるわ)しい微笑(びしょう)に――、

色っぽさすら、感じてしまい、

不本意にも、伏し目がちに……なってしまう。

 

「?? どしたの」

 

怪訝そうな彼女。

リアクションの不可解さも確かなので――とりあえず、目線を、上げなおす。

 

「――なんの話をしていたんでしたっけ」

「音楽の成績が、どーこーとか」

「――そうでしたね」

「葉山さん」

「は、はいっ、?」

「高校、5段階評価だった?」

「5段階、でしたが…」

「じゃあ、わたしんとことおんなじだ」

 

そう言ってから、クスッと笑い、

 

「ずっと『5』だったんでしょ、音楽」

「……」

「ね?」

「……はい。そうでした。

 3年間、音楽は一貫して、『5』でした。

 ついでに言うなら、中高一貫なので、中学時代も、一貫して、『5』……」

なら、わたしとおんなじじゃーん!

「ええっ!?」

「あっ意外!?」

「い、いがいというかなんといいますかっ、」

中学高校、音楽はぜ~んぶ『5』!!

 

…恐る恐る、

「もしかして、ピアノ、弾けたりとか……」

 

「すごいね、なんでわかったの?」

 

「――うそっ

 

「うそじゃないよっ♫♫」