【愛の◯◯】サークル部屋でダベるのは必然

 

・音楽誌『開放弦』 最新号より

 

 「スキーとCMソング

 

 

さつき「……もうすぐ冬だな」

 

圭二「なにボヤいてんですか、さつきさん」

 

さつき「ボヤくわよ、そりゃ」

 

圭二「いっしょに冬を過ごしてくれるお相手もいない、と」

 

『ボガッ』

 

圭二「い、痛い!! 痛いから!!」

 

さつき「自業自得!! まったく」

 

 

 

小鳥遊「どうして羽交い締めにされてるんですか? 圭二先輩」

 

圭二「こ、これはね……この季節の風物詩、だよ」

 

さつき「なにが風物詩だなにが」

 

小鳥遊「まー、ケンカするほど仲がいい、っていいますし」

 

さつき「た、小鳥遊ちゃん、ひどいよ……」

 

小鳥遊「えっ」

 

さつき「あたしは圭二(コイツ)と仲良くしたいんじゃなくて、コイツを雪だるまにしてやりたいんだよ」

 

圭二「雪だるまはやめて!! 死ぬから」

 

小鳥遊「(苦笑いで)雪だるま作るにも、都心はあんまり雪降らないっていう問題がありますよね」

 

さつき「もっと豪雪地帯にコイツを連れていこうかしら」

 

圭二「なにがしたいの!?」

 

 

 

編集長「冬といえば、雪。雪といえば、スキーのゲレンデ」

 

圭二「ちょうどよかった助けてください編集長」

 

さつき「他人に甘えるなっ、この雪だるま」

 

圭二「雪だるま呼ばわりかよ!?」

 

編集長「――スキーといえば、JR東日本

 

さつき・圭二『!?』

 

編集長「だってそうだろう」

 

小鳥遊「あの~編集長、スキーとJR東日本の因果関係って」

 

編集長「JR SKISKIって知らない?」

 

小鳥遊「あ~、なんかCMで見たかも…」

 

編集長「90年代初頭からやっているJR東日本のキャンペーンだ」

 

圭二「……『Choo Choo TRAIN』」

 

編集長「それな」

 

圭二をようやく解放したさつき「EXILEの曲が、どうかしたの?」

 

圭二「EXILEのはカバーです。本家本元の『Choo Choo TRAIN』は、ZOOというユニットが~(以下略)」

 

× × ×

 

小鳥遊「91年とか、わたし産まれてないです」

 

圭二「90年代のJR SKISKIの勢いはすごかったんだ」

 

小鳥遊「どんなふうに?」

 

圭二「タイアップ曲だよ。『Choo Choo TRAIN』を皮切りに、globeの『DEPARTURES』『Can't Stop Fallin' in Love』や、GLAYの『Winter,again』……」

 

編集長「ヒット曲、続発だな」

 

圭二「流行ってましたよね、スキー旅行」

 

編集長「流行ってた流行ってた。今はどうか知らんが」

 

 

 

圭二「さつきさん、最後にスキーに行ったのは、いつですか?」

 

さつき「知るかバカ

 

圭二「ゲレンデがとけるほど恋したくないんですか~~??」

 

『ブガッ』

 

殴られた圭二「アッパーカットかよ、今度は!!」

 

さつき「(圭二の顔を見ずに)広瀬香美パクんな」

 

小鳥遊「だ、だいじょうぶですか、圭二先輩!?」

 

圭二「アゴの骨を割られるかと思った」

 

小鳥遊「それと……」

 

圭二「んん??」

 

小鳥遊「『ひろせこうみ』さんって、だれですか??

 

圭二「えっ」

 

小鳥遊「えっ」

 

× × ×

 

編集長「圭二イジメるのもほどほどにしろよ~さつき」

 

さつき「アイツの90年代J-POPへのこだわりがいけないんです」

 

編集長「おれ、最近知ったことが、ふたつあってさ」

 

さつき「?」

 

編集長「ひとつは、広瀬香美の歌唱力の高さ」

 

さつき「……」

 

編集長「もうひとつは、アルペンの本社が名古屋にあるという事実」

 

さつき「……」

 

 

 

 

 

 

「いつもながら、音楽雑誌なのに、音楽語る気がさらさらないコーナーをブチ込んでくるんだからなあ。

 頭が下がるぜ。

 音楽よりむしろ、編集部内の人間模様のほうがメインになってるのは……もう、気のせいじゃないよな。

 ――まるで文学だな。

 さつきさんは、生涯の伴侶を、見つけられるんだろうか……?」

 

「……どうしちゃったの戸部くん? 雑誌の感想を、そんなに声に出して」

ウワァ八木だ

「……わたしの存在に気づかないほど集中して『開放弦』を読んでたってわけ」

「だって面白いんだもん」

「最新号、買ったんだ」

「ああ」

「――編集部のひとがメインの記事、あるじゃない?」

「いっぱいな」

「ミュージシャンより編集者がしゃしゃり出てくるのもどうかと思うけど――でも、小説みたいで、面白いよね」

「うん、編集部がひとつの物語の舞台になってる」

「群像劇。――わたしにも、書けないかな

「? どういう意味だそりゃあ」

「なんでもない。気まぐれで言っただけ」

 

× × ×

 

「羽田さんの調子はどう? 元気?」

「マジメにやってるよ」

「しっかり戸部くんが支えてあげてね」

「言われんくても」

「微妙な様子の変化に気を配ってあげて。受験期で、デリケートなんだから」

「ど、努力してみる……」

「ほんとのほんとに、だよ」

「そこまで念を押さんくても」

「押すよ!」

「……ハイ。」

 

「愛すべき母校の愛すべき後輩なんだもの、羽田愛さんは。

 ところで……、

 彼女、大学でなにを専攻するとか、決めてるの?」

「決めてるよ」

「さすが、ひとつ屋根の下! バッチリ把握してんじゃない」

「……哲学だ」

「哲学専攻、ってこと?」

「ああ。哲学が、やってみたいんだとよ」

「すごいじゃないの。すごいすごい」

「『すごい』を連発するほどのことなのか…」

「難しいことにぶつかっていく、羽田さんのチャレンジ精神…」

「…見習いたいってか?」

「当然」

「……ま、おいおい明らかになるだろ、哲学に決めた動機とか、詳しいことは。

 なんで、今後の【愛の◯◯】に、乞(こ)うご期待ください」

「だっ、だれに向かって言ってるの、それは」

「不特定多数」

「……戸部くん、」

「んっ」

「ここは学生会館の『MINT JAMS』のサークル部屋なわけだけど」

「なにをいまさら」

「次、講義入ってるんじゃなかった? 早く行かないと遅刻しちゃうんじゃないの?」

おっといけね!!

「……」