【愛の◯◯】「もう一度友だちになってください」

 

なんでアタシ、素直になれないんだろ。

 

羽田に。

 

どなったり、なぐったり、

挙げ句の果てに、「出てけ!!」なんて……。

 

水曜日に、荒れた。

荒れた反動で、木曜金曜と、KHKで羽田に対し、これ以上雑にならないぐらい雑に接した。

 

金曜、家に帰ってくるなり、部屋のベッドに突っ伏して、自分を責めた。

 

麻井律のバカ。

 

これ以上ないくらい、アタシはバカ。

 

羽田との接しかたが、わからない。

イジメがいのある後輩のままならよかった。

なのに、

段々と、アイツの存在が、アタシのなかで盛り上がっていって、

アイツの前で、以前と同じようには振る舞えなくなっていって、

その感情が、苦しくて、

取り乱したりする。

 

――純粋に、羽田のことを好きになれない。

好き、っていうのは、オトコとして好き、ってことだ。

もっと――素直に、羽田を好きになりたい。

 

けど――アタシにとって、『素直な恋』なんてものは絵空事で、

恋愛感情が高まるたび、攻撃的になるから、もどかしい。

 

 

× × ×

 

 

『土曜に会えない?』という甲斐田の申し出を、アタシは承諾した。

甲斐田に会えば、なにか変わるかもしれない、という思いが、こころの片隅で芽生えていた。

甲斐田に頼りっきりじゃダメだ、って思っていても。

自分ひとりで物事が解決できるなんて、もうとっくに思っていない。

 

 

× × ×

 

「なんでこんな場所を?」

「リフレッシュできるじゃない。空気が澄み切ってて」

「寒いよ」

「麻井ってそんなに寒がりだったっけ」

首を振って、否定する。

寒がりじゃない。

寒々しいのは、アタシのこころ。

「こんな遠くの公園に連れてきて……」

「……遠くじゃなきゃ、できない話もあるでしょ」

 

池のほとり。

木製のベンチに、ふたり掛け。

 

「甲斐田……アンタも言うこといろいろあるんだろうけど」

――だからこそ、

「アタシのほうから、先に言わせて」

「先制パンチ?」

「そういうこと」

「先攻後攻はジャンケンで決めない?」

「やだ」

「どうしても――言いたいことがあるみたいだね」

「待ちきれない」

「どうぞなんなりと。聴いてあげますから」

 

何秒間か、ためらったあとで、

 

「…水曜日に、羽田をなぐった」

「暴力反対だな、私は」

「わかってても…なぐっちゃうんだよ。こらえきれない」

「サド?」

「なのかもしれない。でも、サドどうこうより、どうしようもなくって、そのときは」

「利比古くんにあたっちゃダメだよ。気持ちはわかるけどさ」

「――泣いた。泣きながら羽田をポカポカ叩いた」

 

甲斐田はなにも言ってはこない。

なにも、言えないのか。

 

「涙が――アタシの気持ちのあらわれ、だったんだと思う。それから、羽田を部屋から追い出して――『なんで泣くことしかできないの?』って、自問自答した」

 

沈黙と、静寂。

 

やがて、淀みかけた空気を切り裂くようにして、

「それはさ、」

と甲斐田が口を開き、

「利比古くんのこと、好きだから……泣いたんでしょ」

そして、畳みかけるように、

「本気で好きだから、泣いたんでしょ。そういう感情表現のかたちも、あるんだと思う。ある意味、麻井らしい」

 

甲斐田に、問いかけるように、

「アタシ……これからどうしたら、いいのかな」

すると甲斐田は、

「告白しちゃえば?」

「……そういう単純な問題じゃない。割り切れない」

 

気持ちの伝えかたは、

いつも、こんがらかって。

こんがらかるのが、あたりまえなように。

 

「泣きながらポカポカ叩くのだって……告白みたいなものだったかもしれない」

「ずいぶん無理筋な」

「だって……」

「利比古くんには効(き)いてないよ、それ。気持ちを通じさせようと思ったって、通じられてない」

 

じゃあどうすればいいの……教えてよ……甲斐田

 

「難しくて、すぐに教えられるような問題でもないけど」

「それは、そう…」

「考えてあげることなら、できる。ただし、条件付き」

「条件?」

「そ、条件というか、お願いというか」

 

甲斐田の凛(りん)とした声が、12月の澄み切った空気と融(と)け合う。

 

私と――友だちになってください。

 

変化球、だったのか。

それとも、必然のストレート、だったのか。

 

もう一度、友だちになって、麻井。私と

 

なんて言っていいか、わからない。

言いあぐねているアタシに、

 

なんでも言い合って、なんでも聴き合える、そんな、親友に……なりたい。私は、麻井と

 

やっと、ことばが出てきて、

「それが……条件」

「大前提条件。」

 

 

壁が、壊れ、

境界線が、消えて、

友情が、強く引き寄せられるのを、

アタシは、感じる。

 

 

――――わかった。なってあげる、アタシ。アンタの親友に

 

すると……感極まったのか、

 

「麻井……。

 うれしい……。」

 

涙声で、アタシに覆いかぶさってくる。

圧迫されるアタシ。

うれしくて、抱きつきたいのはわかるけど、

体格差ってのを考えてほしい。

身長がアタシよりはるかに高いってことは、

必然的に、体重差ってのが、生まれるんだからさ。

押しつぶされそうだよ。

でも――「重い」なんて、言わない。

重いより、あたたかい。

暖かくて、温かい。

 

 

 

× × ×

 

 

こうして、アタシと甲斐田は、

友情を、取り戻した。