「羽田くん!
好きです!!」
――えっ。
ぼく……告白された。
「一学期が…終わるまでに…言わなきゃいけないと思って。
その……羽田くん、
つきあってくれませんか?」
「………ごめん」
「なんで………」
「――きみのこと、よく知らないから。
ごめん、つきあえない。
本当、ごめん」
× × ×
「あっさり、ふっちゃったね」
その子が、去っていったあとで、
クラスメイトの野々村さんが、
ひょっこり、とその場に現れた。
「野々村さんもしかして」
「ごめん、目撃者になっちゃった」
野々村さんは小石を蹴りながらぼくの近くに来て、
「――もう少し、いい断り方は思いつかなかったの?」
うっ……。
「はじめて…だったんだ」
「告白されるの?」
ぼくは首を縦に振る。
「それにしたってさあ」
少しガッカリしたように、野々村さんは、
「泣いてるよ今頃。たぶん彼女」
× × ×
なぜだかぼくは、旧校舎のオンボロ噴水に来ていた。
噴水のへりに腰掛けて、精神(こころ)を落ち着かせようとする。
でも無理だった。
そこに運悪く、麻井会長が現れた。
ぼくと、正面で見合う形になる。
どういうわけか、麻井会長のほうが、戸惑ったような顔になって、
「…どうかしたの、羽田?」
と声をかけてきた。
事情を言えるわけはなかった。
ぼくが沈黙を貫いていると、
「…少しは反応しろ、このバカ」
と、うつむいているぼくの頭に、アンパンの袋を置いた。
「会長こそなんですか。ぼくにアンパン食べさせたいんですか」
「それはやだ」
「じゃ、なんで…」
「羽田、昼ごはん食べないの?」
すっかり忘れていた。
告白のショックで。
「あ、もしかしてアンパンはんぶん分けてくれるとか」
「やだ」
「……やっぱり、そう来ますか。」
会長はぼくのかなり至近距離に座り、アンパンと豆乳のかなり侘しい昼食をとり始めた。
「それで足りるんですか?」
「足りる」
アンパンを食べ終えると、彼女は袋をクシャクシャにして、
「――あげる」
「――はい!?」
「捨ててきなさい」
「パシリですか。」
どうしようもないなあ、というふうな顔で、
「3分以内に捨てて帰ってきなさい」
「会長命令ですか…。」
「そう! ……元気出せ、このダメ男っ」
「え」
「『え』じゃないっ!! 走れ!!」
あわてて駆け出してゆくぼくの背中に、
「明日に向って走れ、羽田!!」
――冗談なのか、本気で励ましているのかわからない大声を、麻井会長は、浴びせかけた。