期末テスト、終わった、終わった♫
――と思いきや、担任の伊吹先生がすかさず声をかけてきた。
「なんでしょうか?」
「羽田さん、来週さ――」
「来週?」
「家庭訪問したいの」
「それはどういう風の吹き回しですか、先生……」
「驚くことないじゃん」
「だって」
「だってなに?」
「……」
「ほら、羽田さんのおうちは、事情がトクベツだから、さ」
たしかに。
居候だけれど。
だけれど。
「…また、特別扱いですか」
「いいじゃない♪ いいじゃない♪」
「ずいぶんと乗り気ですね…」
「まんざらでもない顔ね」
「どこがっ!!」
「でも今後のこととかさぁ、悩んでるなら相談に乗ってあげるいい機会だよ? 羽田さん」
ぎく。
たしかに。
「――わかりましたっ」
「わかってくれたらよろしい」
「――子供扱いしないでください」
「え、なんで」
「――すぐ頭ナデナデするんだからっ」
「だけどさ、羽田さんもスキンシップけっこうするでしょ?」
「きゃああああああああああああああああああああ!!」
「えっなにその反応、大げさだよ、他の子がみんな振り向いてるよ」
「……ふさわしい場所で話しませんか」
× × ×
「……わたし学校ではみだりにスキンシップとかしてないと思うんですけど」
「そうかなあ?」
「……そうですよ」
「――弟さん、いるよね」
「唐突な」
「うん、唐突だった。ごめんね」
「いったいなんなの、もう…」
「あ、素(す)が出た」
「ぐ」
「かわいい~~」
必死に話題を逸らそうとして、
「わたしは松若さんが気になるんですけど。文芸部部長として」
「あ~、荒れてたね彼女」
「テスト時間が終わると同時に教室からダッシュで抜け出したとか……泣いてたみたい、って言う子もいたし」
「いろいろあるんだよ」
「正直意外でした。そんなに簡単に折れない子だと思ってた」
「思春期だからねえ」
「はぁ…」
「でも羽田さんはさすがだよ」
「??」
「松若さんのことを、そんなに思いやれるなんて、なかなかできないよ。
優しいね。」
「――ありがとうございます」
× × ×
最後は、わたしのほうが、照れちゃった。
来週伊吹先生が邸(いえ)に来ることは確定。
緊張しちゃうよぉ…。
ともあれ、時間があるので、すっかり行きつけの児童文化センターへ。
すると――、
「!! 源太くん」
珍しく、長野源太くんがいる。
源太くんとは、いわば『奇縁』。
「詳しくは――去年の11月あたりの過去ログを漁ってもらえればいいんではないかしら」
「…なにわけのわからないことくっちゃべってるんだ?」
「あ、ごめんごめん」
源太くんも――もう6年生か。
「なかなか背が伸びないね」
「うるせぇ」
「ま、これからだよ」
「…愛さんの身長なんか、いまに追い抜いてやるよ」
ん~~~?
「どうしちゃったの?? 『愛ねーちゃん』って呼べばいいじゃないの」
「……もう子どもじゃないから……6年だし」
かわいい……。
「――そだ! 卓球しましょ! 卓球」
「おれと!?」
「あんたと」
「やだよ、愛さんに勝てっこないし」
「やってみなくちゃーわかんない」
おもむろに、源太くんの腕を引っ張っている。
「…性格悪っ」
「なんかいったでしょ」
「……いってない」
――久々に、
気持ちいい汗をかくまで、
ピンポンした。
それはそうと――。
「強くなってるじゃないの!
去年より、ぜんぜん!!
なに謙遜してたのよ!? あんた」
「――じぶんでも、『ここまでやれる』なんて予想外だった」
「…成長期なんだね」
恥ずかしそうに、少しうつむいたので、
あえて(?)、源太くんの頭に、ポン、と手を置いてあげた。
「…スキンシップかよっ」
うれしくなくは、ないみたい。
それからわたしは少しだけかがんで、源太くんの目線になって、源太くんの左肩に手を置いて、
「自信持ちなさいよ。」
と励ました。
そしたら、源太くんの顔、かなり赤くなり始めて、
ドギマギしてるみたいに、眼が泳ぎ、黙ったきり――、
こっちまで、火照ってきちゃいそうになるじゃないの。
そりゃまあ、本気では火照りはしないけど、わたし!!
「――そっかそっか、源太くんも思春期かっ」
「ししゅんき、?」
「そこでキョトンとしないでよっ」