【愛の◯◯】「岡崎くんのことはあなたのお兄さんだと思いなさい」

 

「活動教室に行くのがつらいんです」

相談室のソファに腰掛けるあすかさんの手には、大量のプリント。

「それって新聞用の記事の原稿よね。たくさん書けてるじゃないの。さすがあすかさん」

「言いにくいんですけど……」

「なーに? 言ってご覧なさいよ」

「実は、先生に、この原稿を預けたくて」

「なんだー、お安い御用じゃない」

「だけど、わたしが原稿を持っていかずに、椛島先生に持っていかせるなんて――ワガママですよね、先生に任せっきりで」

「わたしはそんなことないと思うよ」

予想外のことを言われた顔になるあすかさん。

「でも! 先生に頼っちゃダメだと思うんです。高2にもなって、17歳にもなって、先生に甘えて」

「自分を追い詰めないであすかさん。……わたしね、高校生のときに、部活でイヤなことがあって……今でも、『あのとき顧問の先生にもう少し頼っていれば』って後悔することがあるの。だから、自分の生徒にはわたしを頼ってほしいのよ。原稿はわたしに任せて、あすかさん」

 うろたえて、少しの沈黙があったあとで、

「原稿はお任せするにしても……部のみんなに、どうやって顔を合わせれば……」

「そもそも、なにが原因だったの?」

とたんに彼女が赤面し始めた。

「『だれ』といちばん顔を合わせづらい?」

……岡崎さんです。あの、椛島先生とだけの秘密なんですけど――

こう来たか。

わたしは身構える。

 

岡崎さんのことを意識すると、気が動転しちゃうんです

 

「あちゃぁ……」

あちゃぁ……。

 

わたしこのまま部活に戻れないのはイヤなんです。対処方法ありませんか椛島先生!? あったら教えて下さい……!

「そうだなあ――そうだ、

 岡崎くんのことを、あなたのお兄さんだと思えばいいのよ」

!?!?

「あなたがふだんお兄さんに接するように、岡崎くんと接してみたら?」

「それって逆効果かも……」

「うん。ギャンブルだね」

せんせえっ