【愛の◯◯】祝福の言葉を添えて

 

電話が鳴った。

まさか本当に鳴るなんて。

その電話が来たときの、取り次ぎ役はわたしだった。

でも、その電話が来るまで、取り次ぎ役であることを完全忘却しているくらい、夢にも思わないことだった。

自分の生徒に、そんな、夢物語みたいな――、

吉報が来るなんて。

 

 

× × ×

 

戸部あすかさんを、

相談室に呼んだ。

 

椛島先生、なにか悪いことやらかしましたか――わたし? 文化祭とかで」

「違うわ、あすかさん。悪いことの反対」

「ってことは――」

「いい知らせよ。とってもいい知らせ」

 

「いい知らせ」と言った途端に、あすかさんは何かに気付いたみたいだった。

どんなことに関しての「いい知らせ」か、わかったけれど、わかってしまったからこそ――当惑の色を隠せない、彼女。

 

「現実味がないって顔してるね」

「だ、だって――先生」

「仕方ないよ。わたしだって現実味ないし」

「どうしよう、落ち着けない、心の準備できない、わたし」

「焦る必要なんてないじゃない。現実味ないっていっても、うれしい話なんだからさ」

 

そうは言いつつも、

これから、うれしい知らせの内容を伝えようとするわたしのほうでも、緊張を感じていた。

だから、伝える前に、軽く息を吸い込んだ。

焦(じ)らせるのも良くないし――さっさと話を切り出そう。

 

「学校に電話が来ました。どこから来たのかは――もうわかるよね、あすかさん。それで、わたしが取り次いだら――」

 

 

 

× × ×

 

「――おめでとう」

最後に祝福の言葉を添えて、わたしは伝えるべきことを伝え終えた。

 

いまのあすかさん、

好きな男の子に告白されたときみたいな表情。

 

「うれしくないわけないよね?」

「はい。でも、ビックリした感情のほうが強くて――」

「すごいことだよ、これ。もっと自分を誇りなさいよ」

 

はにかみ。

頬(ほお)の赤み。

 

わたしだって誇らしいよ。

自慢の教え子。

 

「努力の成果だね――積み重ねてきたものが、実を結んだんだね」

「はい……まだ実感、持てないけど」

「部活の顧問としても、誇らしいし、うれしい」

 

× × ×

 

「……で、正式発表はあしたということになっているから、基本オフレコね、あすかさん」

「はい、わかってます」

「そうだなあ…。ご家族、お母さんやお兄さんになら、伝えてもいいかもしれない」

元・教え子だから、彼のことは把握しているつもりなのだが、いちおう訊いてみる。

「あなたのお兄さんは――秘密を守れるタイプ?」

秘密を守れないタイプだとはぜんぜん思えないけれど、念には念を入れて、訊いてみる。

するとあすかさんはこう答えた。

「信頼が置けないので、あしたまで秘密にしておきます」

そうか。

厳しいのね――お兄さんに。

「それはやっぱり、SNSやってるとか、そういう――」

「いいえ。兄はSNSなんて一切やりません」

「じゃあなんで?」

「口が軽いのと――、今すぐバラしちゃ、面白くないので」

なるほど。

そういうことか。

「――お兄さんをあっと言わせたいんだね、あすかさん」

「それもあります。」