【愛の◯◯】甘えるようなあすかの体温

 

さすがに無神経すぎたかなーと思って、 あすかに謝りに行こうとしたら、 なんとあっちから謝ってきた。

 

「 ごめんなさい。 無神経だったのは、 むしろわたしのほうだったかもです」

「 やけに素直じゃねーか」

「 いいじゃん。 素直じゃないより、 100万倍」

「…だな。

 悪かったよ、おれも」

 

なんだかおかしくなって、 ふたりで笑いあって、それで……仲直りできた。

 

× × ×

 

仲直りの印じゃあないが、 ふたりでソファーで隣同士座って、テレビを見る。

「お兄ちゃん、のど乾かない? 麦茶でも持ってきてあげるよ」

「ああ、お願いしていいか?」

「うん」

優しいな、と思って、

「優しいな」と言ったら、

あすかの顔が赤くなった。

 

 

あすかが麦茶をコップに入れて戻ってくる。

おれはリモコンでテレビを消して待っていた。

「どしたの、テレビ消して」

「や…おまえなんか退屈そうにしてたから」

まあいいよ、と眼であすかが合図を送る。

ふたたび、きょうだいで隣同士だ。

「……」

「……」

「……あすか、」

「……うん。」

「父さんがいなくて……さみしくないか」

 

「どうしてそんなこときくの……お兄ちゃん」

 

「おまえは父さんの記憶、あんま無いかもしれないけど……それでも、さみしいときが、あるんじゃなかろうか、ってな」

 

「………あるよ、ときどきだけど」

「やっぱりか」

情けねぇなあ、おれ。

妹の、ポッカリ空いたさみしさの穴すら、埋められねぇ。

「ごめんな、兄貴が頼りなくて。ごめんな、父さんの代わりになってあげられなくて」

「いきなりなに言うの、大げさだよ」

「いやほんと、おまえ、つらいよな。ほんとごめん」

「お兄ちゃんだって、いろいろつらかったじゃんっ」

「おれは……乗り越えられるから。そんでもって、もっともっと強くなるから」

「お兄ちゃん…今のままで、充分強いじゃん、頼りになるじゃん」

「あすか……おれ」

 

「……!」

 

あすかがハッとするのも無理もない。

 

柄にもなく、泣けてきた。

まぶたがじんわりだ。

 

「あすか、おれ、おまえを守れるかなっ」

 

「らしくないよ…お兄ちゃん」

 

あすかもいつの間にやら涙声になって、お互い、どちらともなく、身体を寄せ合っている。

甘えるようなあすかの体温が、あたたかい。

いつ以来だろうか――こんなに素直にあすかが甘えてきてくれるのは。

 

「守れるに決まってるじゃん、守ってくれるに決まってるじゃん。涙拭いてよお兄ちゃん、おねーさんにそんな顔見せる気なの?」

「――おまえこそ、顔グシャグシャなくせによっ」

「仕方ないじゃん、お兄ちゃんが、あんまりしみったれてるんだから――」

「ひでぇ」

あすかはおれから身体を離さなかった。

「お兄ちゃん……痛かったら、言ってね」

「アホかっ。おまえの身体ぐらいどうってことねーよっ」

「うん。ごめんね、へんなこと言って」

「どんだけ素直だよ…」

「あと30分」

「30分がどうしたぁ?」

「あと30分だけ、お兄ちゃんをひとりじめさせて。たまにはいいでしょっ」

「しょうがねぇやっちゃ。

 いいに決まってんだろっ。

 きょうだいなんだし、家族なんだし」

おれがそう言うと、あすかは恥じらい混じりに、それでも満足そうに、おれの肩に顔を押し付けてくるのだった。