【愛の◯◯】KHK・麻井会長

 

放送部の勧誘を受けているところを、強奪したってことは、どうしてもぼくが欲しかったってことだ。

 

どうしてぼくだったんだろう。
 

気になって、アサイ先輩のKHK(桐原放送協会)をたずねてみたくなった。

 

 

とはいってもKHKの活動場所がわからなかったので、まず放送部に行って、甲斐田部長に訊いてみるしかなかった。

 

甲斐田部長が教えてくれるかどうかは未知数だったけど。

 

「放送室」が、そのまま桐原高校放送部の活動場所だった。

ノックして、甲斐田部長の名前を呼んだ。

 

「あなた、結構度胸あるね。

 ええと…羽田くん、だったよね」

「ハイ、羽田利比古といいます」

「見学?」

「いいえ、きょうは見学じゃないんです。

 アサイさんがどこにいるか知りたいんです」

 

甲斐田部長のこめかみがピクッと動いた。

彼女は、腕を組んで、

 

「わざわざ……知る必要もないんじゃないかな」

 

ぼくは勇気を出して、

 

「それでもぼくは知りたいんです。あのひとには何かがあると思うんです」

「何かがある??」

 

ぼくは黙ってうなずいた。

 

「どうせ何も考えなんてないよ、アイツには。

 ケンカっ早(ぱや)いだけで、我(が)を通して放送部を飛び出してーー」

 

「たぶんアサイさんは、意志が強いんですね」

 

どうしてわかるの……

 

甲斐田部長が、姉みたいなことを言った。

 

「どうしてわかるの? 新入生のあなたに」

 

「誘拐めいたことをするのも、意志の強さの裏返しだと思います。

 間違った意志の強さかもしれないけど」

 

「ぜったいアサイのほうが間違ってるよ」

 

仲が悪すぎるくらいに、ふたりの仲が悪いのが感じ取れた。

 

甲斐田部長はため息をついて、

 

「あのね、実はこの学校には、使われなくなった放送室があるの。

 ここが現・放送室だとしたら、そこは旧・放送室。

 旧・放送室をアサイが乗っ取って、【第2放送室】って名前を変えちゃったのね」

 

「わかりました、そこに行けばいいんですね」

「…ほんとうに行くつもり?」

「行動しなきゃ、いけないと思うんで」

 

もしかしたら、アサイ先輩の行動力に、ぼくは感化されたのかもしれなかった。

 

× × ×

 

 

甲斐田部長はあんがい親切に場所を教えてくれた。

アサイ先輩を憎んでいるわけではなさそうだな」とぼくは思った。

 

【第2放送室】は古い校舎の一隅(いちぐう)にあった。

近くの壁には落書きが消えていなくて、第2放送室のドアはほこりをかぶっているようだった。

それでもドアの上には、『第2放送室』という手書きのネームプレートが掲げてあって、

ドアのガラス窓には、『KHK』というどでかい貼り紙がしてあった。

 

とりあえず、まずはノックしてみる。

やや間があって、ドアがぎしっ、と開いて、にゅ~っとアサイ先輩が姿をあらわした。

小柄なアサイ先輩が、攻撃的な眼でぼくをのぞき込んでくる。

 

「なんでここわかった?」

「甲斐田部長が、教えてくれました」

「スパイ?」

「なわけないじゃないですか。

 見学です。」

 

× × ×

 

「狭いけど適当に座って」

「はぁ……」

「はぁ……じゃないでしょ」

「す、すみません」

 

おそらく150センチ未満の小柄な体格、長いボサボサ髪にパーカー、でも、声色(こわいろ)がトゲトゲしくて、怖い。

 

「ひとつ、いいでしょうか?」

「いいよ。いいけど、教えたことは一回で覚えてよ」

 

ひえええええ。

 

アサイ部長の『アサイ』って、漢字でどう書くんですか」

「麻薬の『麻』に、井戸の『井』。」

「…わかりました。」

「アタシっからひとつアンタにお願いしたいんだけどさあ」

「はい?」

「部長、じゃないから」

「???」

「さっきアンタはアタシを麻井『部長』って呼んだよね。

 アタシ、甲斐田と同類に思われたくないから。

 

 ここではアタシは『会長』だから。

 桐原放送協会の、『会長』!!」

 

うわあ……。

めんどくさい人だぁ。

 

「以後、部長じゃなくって『会長』をつけて呼んで。

 わかった?」

「は、はい」

「入会意志は?」

「放送部と、両方を見学したあとで、決めようかと」

「ダメって言ったらどうする?」

 

そう言って、麻井会長はにゅ~っと睨み眼でぼくの顔を凝視した。

威圧感…。

 

「アンタ、自分の意志でここに来たんだよね?

 じゃあ入会してくんなきゃ、ちょっと困るんだけどなあ」

 

悪い、悪い笑みだ。

悪い笑みで、麻井会長の存在の圧力が、ぼくに迫ってくる…!

 

「掛け持ちは……」

「ぜっっっったいダメ」

 

どうしよう。

 

「あの、麻井会長が、ぼくの入部にこだわるなら、」

「入部じゃない! 入会!!」

「にゅにゅ入会にこだわるなら! 甲斐田部長とのいきさつをーー話してもらう『義務』があると思うんです」

「アタシに、義務が!?」

「そうです。

 あの……腕をひっぱられた者としては……ぼくをひったくろうとした麻井会長に責任が生じるんではないかと……」

 

「アンタ、『あの』が口癖?」

「そ、そこですか」

「『あの』を前置きで多用する男は、優柔不断って認定するから」

 

め、メチャクチャだぁ。

 

「アンタのそういう性根(しょうね)から、治してあげたい。

 きっとここが気に入る。えっと…」

 

「羽田です。ぼく、1年B組の、羽田利比古です」

 

 

『ハネダ、ねぇ…』と小声でつぶやいたかと思うと、麻井会長は不敵に笑った。

 

 

× × ×

 

KHK(桐原放送協会)には、あとふたり部員…ではなく会員がいた。

おそらく、麻井会長が放送部から引き抜いたと思われる。

 

いずれも2年生。

 

・板東(ばんどう)なぎさ先輩 (女子)

・黒柳巧(くろやなぎ たくみ)先輩 (男子)

 

なのだが、ふたりのことは、おいおい紹介していくことになると思う。