【愛の◯◯】わたしのバスケ、岡崎さんのバスケ、兄貴のバスケ……

ども! あすかですよ~。 

 

さぁて、センバツの出場校も決まり、プロ野球のキャンプインも間近。

「球春(きゅうしゅん)」も、にわかに近づいてきたのではないでしょうか。

『スポーツ新聞部』球技担当のわたしは、やる気満々で野球記事を書いているわけであります。

 

ーーところがーー

 

「あすかさん、

 ここは書き直したほうがいいよ

 

「…どうしてですか、

 岡崎さん……」

 

 

 

 岡崎竹通(おかざき たけみち)さん。

 

スポーツ新聞部2年生で、

「陸(おか)」の競技を担当しているけど、球技担当であるわたしの記事も手伝ってくれたりする、いい人。

 

いい人、

なのに、

わたしが書いた「センバツ出場校全紹介」における、とある文章に、岡崎さんのチェックが入った。

 

というか、ダメ出し。

 

 

「あすかさんの主観が入りすぎてる。

 もし、この学校の関係者や、学校に近しいひとがこの部分を読んだら、誤解を招くかもしれない。」

 

「関係者…って、うちの校内で配ってる新聞ですよ、この学校に出回るってことはおよそ考えられないーー」

 

「でも、確率はゼロじゃない。

 WEBに加えSNSが発達しているいま、晒し上げられないとは限られない」

 

「(だんだんイライラしてきて、)晒し上げーーって、ツイッターとか、そういうことですよね。

 

 でも、でも、誤解を招くってそんなことはないと思うんですけどっ。

 

 わたしこの学校を叩いたり茶化したりする意図でこの文章書いたわけじゃありませんっ」

 

「でも、読者がいる。

 

 現に、『きみ』じゃない『おれ』が読んで、違和感を感じる。

 

 きみらしくないなあ。

 読者の存在を意識して書いてるんだと思ってた。

 だからきみの文章は素晴らしいんだと思ってた。

 

 思い違いだったのかな」

 

「(キレかかって、)思い違いってーーどういうイミですか」

 

「ーーそれとも、

 無意識に読者を想定できるから、意識しなくてもいい文章がかけるのか…。

 

 そうか。

 うらやましいよ。

 

 にしてもーー、」

 

 

カチンッ💢 

 

 

じゃあいいじゃないですかもう!!

 センバツ出場校紹介は全ボツでも!!!!!

 

 

ーー、

ーー、

 

 

言うがはやいか、

わたしは活動教室から脱走して、

廊下を駆け抜けて、

 

泣きそうになりそうで、

それでも、押しとどまって、

目的地はというと、

 

ーー、

ーー、

 

 

 

× × ×

 

体育館

 

好都合にも、もぬけの殻(から)の体育館。

 

 

 

わたしは、

ひたすらバスケットゴールに向かって、

ボールを投げ続けていた。

 

 

悲惨なことになった。

 

たぶん、たぶん岡崎さんのほうが正しいんだ。

 

わたしが突っぱねなきゃよかった。

 

もっと穏便に済む問題だった。

 

 

でもーーわたしの精神(こころ)のどこかに、勝ち気な気性(きしょう)があってーー

 

その気性が、兄ゆずりなのかどうかは、判然としないけれどーー

 

勝ち気な気性が、前面に出てしまって、

だから、

ーーこうやって、入る見込みのないシュートを、バスケットゴールに向かって何十発も連発しているんだ。

 

 

 

 

…つかれちゃった。

 

 

・あえぐわたし

 

 

 

 

 

 

コービー・ブライアントが亡くなったのは残念だったね

 

 

 

 

岡崎さん……。

 

 わたしのうしろに、いるんですね」

 

 

岡崎さんが、

 

わたしより遠い位置から撃(う)ったシュートが、

 

一撃でゴールネットを揺らした。 

 

 

「……バスケ部だったんですか?」

 

「ちょっと違うんだなあ。

 バスケ部だったといえばウソになるし、

 バスケ部じゃなかったといってもウソになる」

 

「…対手(あいて)のことを考えてくださいw

 

 読者がいるーーって言ったの、岡崎さんのほうじゃないですか!w」

 

 

「ごめんw」

 

 

「わたしのほうこそ…ごめんなさいw」

 

 

「アツマさんはね、」

「!? 兄が、どうかしたんですか」

「おれよりも遠い位置からーーシュートをバンバン決めてたんだよ」

「高校時代?」

「高校時代。」

「そこよりも遠いって、もはやスリーポイントじゃないですか」

「ーーきみ、『黒子のバスケ』読んだことある?」

「緑間真太郎くんのことですか?」

「知ってるんだ」

「先ごろ、全巻読み終えまして」

「それなら話が早い」

 

 

黒子のバスケ コミック 全30巻完結セット (ジャンプコミックス)

黒子のバスケ コミック 全30巻完結セット (ジャンプコミックス)

 

 

 

「わたしその影響で、スカパーでBリーグの試合をちょくちょく観るようになったりもして」

「えらい」

「そうですか?」

 

「ーーで、話を戻すと、

 バスケ部の助っ人で試合に出た兄が、

 まるで緑間真太郎くんみたいに正確無比にスリーポイントシュートを決め続けていたーーと」

 

「そうなのだよ

 

「ウソでしょw」

 

「な、なんでわかった!?」

 

「形だけマネたってダメですよw 小野大輔さんになりきらないとww」

 

「…(ため息をつき、)そうだな。

 でも、緑間ほどじゃないにしても、

 日向順平レベルにはあったよ、きみのお兄さんは」

 

そ、そ、それめちゃくちゃすごいじゃないですか!!!!!

 

「そうだよ、

 ほんとうにすごかったんだ、きみのお兄さんは。

 

 

 

 

 

 ーーだからおれは、スポーツ新聞部に入ったんだ

 

 

 

えっ?

 

 

 

話の繋(つな)がりが、わからない…。

 

 

 

 

 

「片付けて部活に戻ろうや、あすかさん」

「(キョトンとしたまま)わかりました……」