【愛の◯◯】あすかちゃんがお風呂で語る

わたしが居候しているお邸(やしき)には、ただのお風呂ではない、そう、「浴場」があって、温泉が湧いているかどうかなんて知らないけど、銭湯ぐらいの規模は、ある。

 

だから、ひとりじゃなくって、何人かでいっしょに入浴することもできるわけで、ついおととい、あすかちゃんと一緒に湯船に浸(つ)かったばかりである。

 

脱衣所で、あすかちゃんのブラジャーが小さくなってることを指摘したり、お湯に浸かっているときに、会話の流れのドサクサにまぎれてあすかちゃんの「とある部分」を触ったり、おとといは、ずいぶんと彼女にちょっかいを出してしまったものだ。

 

ーー反省。

 

ただ、反省するヒマもなくーー 

 

 

おねーさん、おフロはいりましょーよぉ

 

「ーーきょうも?」

「きょうも。」

 

 

× × ×

 

脱衣所はカット

いきなり! 浴場

 

「…ナイショ話でもあるの?」

「ナイショではないんですけど、おねーさんにはまだ話してないことです」

「ふーん。なぁに?」

 

「……じつはおととい話してもよかったんですけど、

 時間がなくて、話しきれなかったので。

 

 

 

 ……おねーさんがわたしのオッパイ突っついてきたのが悪いんですよ?」

 

ご、ごめん! ほんとうに、ごめんね?

 

「冗談ですっ、冗談。

 

『この一年で、兄が前よりずっと頼れるようになった、頼もしくなった』ってことは言いましたよね」

「言った、言った」

「ーーこれ、兄が頼もしくなる前の話なんですけど、」

「わたしがここに来る前?」

「いいえ、そんな前じゃないです。

 

 1年以上前…つまり、おねーさんが高1でわたしが中3で兄が高3だったときの秋です。

 

 兄が…おねーさんに、過去を…自分が中学時代いじめられていたことを打ち明けましたよね。」

「……うん。

 いじめられてたけど、身体(からだ)を鍛えて、逆にいじめっ子をコテンパンにしたって言ってた。

 でも、わたし、アツマくんの話す過去が、あまりにも壮絶だったから、怯えちゃって」

「いじめてる方、コテンパンにされるどころか、再起不能になっちゃったみたいですからね」

「『なんで、どうしてそんなこと話すの……?』って、わたしが泣きながら言ったら、」

「抱きしめられた」

「そう。恥ずかしかったけど……それ以上に、アツマくんが優しかった」

 

「ーーさて、本題はここからです。

 

 おねーさんが抱きしめられた翌日、『自分の過去を打ち明けたこと』を、兄はわたしに伝えました。

 

 わたしは驚いて、少しだけ兄を見直したんですが、まだ疑心暗鬼な面は残っていました」

 

「どこが疑心暗鬼だったの?w」

 

「兄をーー100パーセント、信頼できていなかったんです。

 

 当時わたしは高校受験を控えていました。

 

『高校受験の勉強のほうはどうだ、うまくいってるか』と、気づかってくれる兄のことばに、わたしは煮え切らない態度を取ってしまいました」

 

「それも、同じ日?」

「そうです。自分の過去を打ち明けたことをわたしに打ち明けた、すぐあとです」

 

「いろいろあるのね、あなたたちきょうだいもw」

「話を続けますよ」

「どうぞ」

 

「ーー兄はほんとうに受験生のわたしを心配してくれてたみたいで、みるみるうちに顔は青ざめて、震え声になって。

 

 ……お兄ちゃんだって大学受験を控えていたのに、わたし思いだった。

 

 だけど、煮え切らない態度を取ったあのころのわたしは、お兄ちゃんが心の底から妹思いで心配してくれてるんだって、イマイチ気付いてあげられなかった。理解が足りなかったんだ。

 

 あのときのわたしの、バカ!

 

 

「(^_^;;)お、おちついて話さないとのぼせるよ、あすかちゃん」

 

 

「とつぜん、わたしの両肩をお兄ちゃんガッシリとつかんできたんです。

 

 お兄ちゃん腕の力が強いから、痛みすら感じるぐらいに…。

 

 あんなお兄ちゃんを見るのは、生まれて初めてだったから、もうわたしは何がなんだかわからない状態でした。

 

 つかみかかる、というよりは、しがみつくような感じで、すがりつくような感じもあったかもしれません。

 

 それから、一喝(いっかつ)、っていうんでしょうか、大声でどなられて、気が動転して、頭が真っ白になりそうだったんですけど、

 

 わたしから両腕を離したお兄ちゃんの顔がとたんに優しくなってーー、

 優しい笑顏で、わたしの頭にぽん、って手を置いてくれてーー、

 

 それでひとこと、

 『兄貴も頼れよ。』

 って。

 

 あのときのわたしは、それでも素直になれなくって。

 お兄ちゃんの心づかいが、こそばゆくって。

 

 やっとの思いで、『ありがとう……』って言えたけれど、胸がくすぐったくって。

 お兄ちゃんがこんなに妹思いなんだ、っていう事実、を、認められない心と、認めてしまいたい心が、せめぎ合っていて。

 

 自分の部屋に戻っても、気持ちは到底整理できなくってーー、

 気付いたら、ベッドの上で、ポロポロ涙を流していてーー。

 

 

 あ、あのっ、自分の部屋で泣いたってことは、お兄ちゃんにはナイショにして、おねーさん」

 

「わかってるよw

 

 でも、バレてるかもねw」

 

語り倒して疲れたのか、あすかちゃん、脱力感にあふれている。

 

からだにうまく力が入り切らない感じ。

 

 

かわいいw

 

 

「ーーでもさ、

 なんでそんな昔のこと、わざわざ今になってーー」

 

「お兄ちゃんのルーツだから」

「ルーツ?」

「ルーツ。

 

 たくましくなったお兄ちゃんの、ルーツだから…