【愛の◯◯】からかったり、ドキッとしたり

放課後。

 

わたしとアカ子、 

そして荒木先生の3人で、

音楽準備室の片付けをすることになった。

 

アカ子「荒木先生って、吹奏楽部の顧問なんですよね?」

荒木先生「うん。でもほら、ぼくはこの学校に入りたてだから――」

わたし「上司の阿久井先生がいばってるんですよね」

アカ子「えっ、それほんと、さやかちゃん?

 ひどーい、荒木先生、雑用係みたいじゃない」

荒木先生「べ、別に阿久井先生いばってるわけじゃないし、雑用係でもないよ」

わたし「ジョーダンですよ。」

 

からかいたくなっただけ。 

 

荒木先生「何だよ、からかわないでくれよ~」

 

その、期待通りの反応が、

わたしはうれしかった。 

 

× × ×

 

<ピンポンパンポーン

 

『荒木先生、荒木先生、阿久井先生がお呼びです。至急――』

 

荒木先生「いけね。ごめん、ちょっと行ってくる(スタスタスタ)」

 

思わず、アカ子と顔を見合わせてしまった。 

 

わたし「……パシリ?」

アカ子「阿久井先生って、若い先生をこき使うようなタイプだったかしら?」

 

 

♪(着信メロディ)♪

 

アカ子「あ、ごめん、わたしマナーモードにするの忘れていたみたい」

わたし「レミオロメン

アカ子「(ギクリとしたように)よ、よくわかったわね、世代が違うと思ったけれど…」

わたし「どうせなら『◯◯◯◯』や『◯◯◯』を着メロにすればいいのにw」

アカ子「か、からかってるの!?

 

 

 

ether[エーテル]

ether[エーテル]

 

 

 

アカ子「もしもし、蜜柑?

(準備室を出て)そんなことで電話してきたの? 急な用でないなら、こんな時間に――

 

そうだよね。

夏秋冬』や『景色』なんて、

 着メロにできないよね。

 

もう今は、聴くのすら恥ずかしい状態なのかも。

 

そしてわたしは――、

準備室でひとりぼっちに。

 

ひとりで片付けちゃおうか?

 

いや、やめた。

ちょうどいい具合に、CDラジカセが机の上に置いてある。

 

わたしはラジカセの真横の椅子に腰掛け、とあるCDを再生して、

目をつぶって聴き始めた。 

 

 

 

 

 

チャイコフスキーの『1812年』

「Σ( ;゚д゚)ドキッ!

 

わたし「(思わず目を見開いて)

 荒木先生……。

 おかえりなさい。

 ご明答。」

 

わたしも、他人(ひと)のこと、

言えないかもしれない。 

 

わたし「ラジカセ勝手に使ってました、すみませんでした」

荒木先生「いや~いいんだよ。こっちも待たせてしまってごめんねぇ。

 

 いいよね。『1812年』、こう、勇ましくってさ。

 

 青島さんらしい選曲だと思う

 

 

もし、

青島さんみたいな曲だ』って、

荒木先生が言っていたら、

 

わたしは、心臓が張り裂けそうになっていたかもしれない。

 

 

…さすがに、それはないか。

先生の認識からして。

 

 

帰ってきたアカ子「あ、チャイコフスキーだ。

 しかも『1812年』」

わたしと先生『さすが。』

アカ子「勇猛果敢でいいですよね。

 以前、蜜柑……うちのメイドが、寝坊して起きてこなかったときに、この曲を大音量で流して無理やり起こしたことがあって――」

 

荒木先生「(^_^;)か、片付けしよっか」

わたし「(;-_-)さっさとやっちゃいましょう」