「ただいま~」
× × ×
「帰ったわよ、蜜柑」
「あれっ? お嬢さま、ずいぶんご帰宅がお早いじゃありませんか」
「知らないの? 期末テストが始まって、学校が終わるのが早いのよ」
「いま初めて知りましたが……」
蜜柑は極度にくつろいでいて、ソファに寝転びながら、ファッション雑誌をぺらぺらとめくっている。
「少しはわたしの事情っていうものにも関心を持ってよね」
「わかってますよー」
「それから…あんまり言いたくないけれど、暇をもてあましてるからって、そんなにだらしなくするものじゃないでしょ」
不満そうにむ~っ、とする蜜柑。
だんだんわたしのほうがイライラしてくる。
蜜柑は起きあがってファッション雑誌を置いたかと思うと、
「わたしだって……アカ子さんのことは気にしてますし」
「あらそう。たとえば?」
「たとえば…、先週の金曜日に、ハルくんが来たときのこととか」
不意打ち。
「それが、どうか、したのかしらっ」
「アカ子さん……ハルくんに、もっと、居てほしかったんじゃないんですか」
不意打ちその2。
「ハルくんにもハルくんの都合があるでしょ? 無理に引き留めるわけにもいかないじゃない」
――こんなやり取り、している場合じゃないのに。
わたし早く自分の部屋でテスト勉強したいんですけど、蜜柑。
「本音はどうだったんですかぁ?」
鬱陶しいわね。
「…お父さんが帰ってきてたら、厄介なことになってたでしょう」
蜜柑は茶化すような声で、
「そのほうがたのしかったとおもいますけどね~」
いい加減にして。
「……蜜柑」
「なんですか? いきなり近づいてきて」
「その雑誌は没収」
「えええ……」
「わたしが怒ってるのがわかんないの!? もっとちゃんとしてよ!!」
――蜜柑の雑誌を強奪して、自分の部屋に駆け込んだ。
それからテスト勉強を始めたけれど、勉強しながらイライラが収まらなくて、軽く頭痛がした。
バカ蜜柑。
やがて、ストレスが頂点に達して、勉強も何も手につかなくなってしまった。
蜜柑は一度も階段をのぼってくる気配すらない。
『わたしにかまってられない』っていう意思表示なのかもしれない。
わたしが怒ってなかったら、『紅茶ができましたよ~』と、呼びに来てくれたかもしれないのに。
ちょうど、そんな時間帯だ。
でも、きょうの蜜柑は、紅茶を淹れてくれない。
蜜柑だって――きっと怒ってるから。
× × ×
意を決して、わたしは1階に下りた。
「蜜柑――この雑誌、返すから」
「イヤです。それはアカ子さんにあげますっ」
「ワガママ。ワガママ蜜柑」
「ふんっ」
「ばか。」
極度に距離を取って、わたしと蜜柑はリビングで押し黙り続けていた。
そしたら、お母さんが帰ってきてしまった。
まさに冷戦状態のわたしたちを見て、
「ケンカ? 仲良くしなきゃだめよ、あーちゃんもみーちゃんも」
諭(さと)すように言うのだった。
わたしと蜜柑の中間地点にお母さんは腰かけた。
――20分後、いたたまれなくなったのか、蜜柑が階段に向かって駆け出した。
蜜柑の部屋に逃げ込んだのだろう。
× × ×
蜜柑の部屋をノックするわたし。
「あのね」
「……」
「お母さんの言うように、仲直りしなきゃいけないと思うの」
「……」
「あけるよ」
ベッドに突っ伏して縮(ちぢ)こまっている蜜柑。
わたしから謝らなきゃだめなのかな、と思っていたら、不意に、
「…まちがってました、わたし」
と、ベッドに突っ伏しながら、言ってきた。
「調子に乗りすぎでした」
「そのとおりね」
「お調子者すぎました、わたし」
「はいはい」
わたしは蜜柑の机の前にある椅子に座って、
「蜜柑が悪いのは明らかだけど――自分が悪いって、素直に認められるのは、偉いと思う。なかなかできないもの。わたしだって、できるかどうかわかんない」
「案外、素直じゃないですものね、アカ子さんは」
「お調子者っ」
脱力したようになる蜜柑。
「ま、いいわ。わたしも頭に血がのぼるのが速すぎたから」
「……瞬間湯沸かし器」
あのねえ…。