羽田さんの文芸部みたく、放送部は高等部にしかない部活で、3年間……そう、3年間。3年生だから、OG的な立場にはなってきてるんだけど、わたし、放送部で3年間を過ごせて、幸せだった。
放送部は文化系クラブ活動であると世間では通っているが、わたしはほとんどの文化系クラブ活動は、体育会系だと思う。
例えば、演劇部なんか、ほとんど運動部みたいなものでしょう?
文化部ってのはさ、身体も使うけど、神経も使うんだから。
まぁ、神経使う、ってのは、人間関係のことね。
クラブ活動で寄り集まる以上、軋轢(あつれき)は必然的に生まれるんだけど、文化部「なので」、むしろ運動部よりもギスギスしてる部活もあったりするモノ。
心当たりがある人もいるんじゃなかろうか。
ただ、
『調停役』が最低でもひとりいれば、軋轢を是正できることは多い。
「女同士は男同士よりもギスギスするんじゃないか」って言われることしばしばあるけれど、まー、6割ぐらいは的を射てるかしら。
的を射る、といえば、あれ? 弓道部って、運動部だっけ、文化部だっけ。
放送部は、文化系部活のなかでも、体育会系寄りの部活。
「『調停役』が最低でもひとりいれば、場はうまく収まる」みたいなことを、さっき言ったけど、わたしのいた放送部は、まさにそんなとこだった。
Nコン(NHKコンテスト)や総文祭(総合文化祭)の地区予選に、必ずみんなで制作した番組を出す、それが1960年代からのうちの放送部の「慣例」だった。
だからケンカもいっぱいしたよね。
でも調停役つまり『取りまとめ役』を務めるひとが必ずいたので、ケンカして同級生や先輩と口もききたくない! というときはあっても、最終的には、ひとつの制作番組に「結実」した。
『東京都』というくくりゆえ、全国随一の激戦区で、なかなか全国まで駒を進める! ってのは厳しいもんだったけど。
ーーそれでも、時には、作品(番組)が、全国に通ったりした。
放送部の部員は、「選手」。
しかも、番組制作という「団体戦」と同時に、「個人戦」でも選手となって競い合う。
朗読かアナウンス。
わたしはいまのお料理対決の実況みたいに、アナウンサー志向が強いから、高3に上がるまではアナウンスばっかりやってたんだけど……
『八重子(やえこ)、もうお外暗くなっちゃってるよ!
……まだ練習してるの?』
『ねえ、この言葉、アクセントどうだったっけ。ちょっと聴いて確かめてみてくれない?』
『…もうw』
「八木はさ~」
『なんですか、キッチンの葉山選手』
「わたし選手だったの!?」
『実況なので』
「八木、あんたは、アナウンサーになるの?」
『"なる"?
アナウンサーって"なる"もんじゃないと思うんですがねえ!!』
「キー局のアナウンサーが軒並みコネ採用だから、ってこと?」
『(当然のごとくスルーして)早稲田の文学部行って、社会学勉強して、キー局の面接受けるーーそんな青写真は、あったよ』
「あった、ってことは、過去形じゃん」
『うん、いまは違うの。
…ほら、知ってるでしょ葉山、わたしが今年の3年生最後の大会で、いままでこだわっていたアナウンスから朗読に転向して、みごとに全国大会の切符を勝ち取ったこと』
「土佐日記読んだんだっけ?」
『そうだよ。
古文だったのが逆に良かったのかもしれないね、ああいう文体ああいうリズムの作品読むのが得意だったから、全国行けたんだと思う』
「えっ八木センパイ、古今和歌集読まれるんですか? わたしも古今集だとやっぱり貫之の歌が好きなんです!」
そうなのか、貫之派か、羽田さんもw
『紀貫之の歌でとくに好きな歌って……』
『戸部くん、わたしは実況に戻ります』
『うぐっ』
『戸部くん、読書会する?』
『!?』
『戸部くんの家、いろんなひとが集まってくるらしいじゃない。わたしも戸部くんや羽田さんが住んでる家、行ってもいい?』
『いいよ。でも古今和歌集読むのかよ、骨折れるなあ……』
「何いってんの!? 古今集も土佐日記も、油断してると入試問題で出るわよ!?」
『ヒェー(;´Д`)』
ふふふふ…w
羽田さんの言う通りなんだよなあww
・料理はどうなったの!?