学校を休んだ。
わたしはサボっちゃったんだろうか。
それとも、欠席は妥当な措置ーー
やだ、
やだ。
考えたくない。
スウェットのまま、ずっとベッドから動かなかった……
もとい、動けなかった。
きのうは部屋まで食事を運んでもらった。
きょうも。
でも、朝も昼も、きょうは要らなかった。
朝。
掛け布団から出られないでいたら、時計が11時をまわっていて、せっかく作ってもらった朝ごはんをムダにした。
昼。
トイレに行くこともなく、ベッドから一度も起き上がらずに、寝返りを打ちながら、スマホをひたすらいじっていて、それで……食欲がなかった。
15時になってもお腹が空かず、昼ごはんはとっくに冷めていた。
♪こん、こん、こん。♪
「おかあさん、ごめんなさい、せっかくつくってもらったごはんが、2かいともたべられませんでした」
「……一緒にいたほうがいい?」
「・・・・・・」
「・・・・・・わからない」
『どうしても抜けられない用事があるから、ちょっとわたし出てくるね。
何も考えなくていいからね』
そう言って母が家をあけた。
起きてから9時間以上ベッドの上。
内側から腐っていく。
ほんとうに学校を辞める以前に、精神的落第者・精神的中退者に、このままなってしまうんだろうか。
精神的リタイア。
人生からも事実上の解雇通告。
モラトリアムのまま退職金はゼロでそもそも退職金という概念があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
大声が出た。
けれども、窓の外はビクともしない。
だれも怒らない。
なにも起こらない。
虫の羽音も、葉っぱがそよ風でこすれる音も、聞こえてはこない。
わたしは外を散歩することにした。
東京都民でよかった。
高校3年生ぐらいの女の子が、私服を着て、下校する小学生の反対方向に歩いて行っても、だれも気にも留めない。
ーー考えすぎだな。
そんなだれも見ず知らずの他人なんか過剰に気にしないって。
だけど、
『不登校児が多すぎて気にも留めないんだろう』
とか、
諦めにも似た被害妄想があたまをもたげてきて、
いや、
もう諦めなのか妄想なのか区別がつかずに。
母さんにはちゃんとメールを打った。
カラダが重くていつもの6倍着替えに時間がかかったけど、なんとかマシな身なりになった、と思う。
ノンワイヤーにしたけど、ブラジャーもきちんとつけた。
もちろんショーツもはいてる、
これ、付け加える必要なかったか。
化学繊維はなんとなくイヤだった。
もっとも綿だとか化繊だとか、いまはいちいち気にしてないけど。
『すごく嫌な感じ』があたまをもたげてきて、偏頭痛みたいな状態でガンガンうずく。
河川敷のグラウンドが見下ろせる階段に座り込む。
いや、もしかしたらここは、試合のときスタンド代わりになるところなのかもしれない。
なんていうんだっけ、こういう石造りのーー
わたしってもっと語彙力があったと思ったけどという自己嫌悪に陥るわたしの思考回路を炭焼きにしたくなった、
とか、わけのわからない精神状態を抱えたまま、サッカー部の練習風景を、虚空を遠い目で見るように眺めていた。
すると。
大きなクリアミスでも誰かさんがやってしまったのか、サッカーボールがわたしの横まで飛んできて、手元まで転がってきた。
『すみませ~ん!』
『すみませ~ん、ボールを、蹴ってもらえますか~?』
「わたし、ひざ丈のスカートなんだけど」
そうわたしは声に出して言った。
でも、この程度の声量じゃあ、グラウンドからボールを要求しているマネージャーちゃんの女の子には、到底届かない、とどかないn
『ごめんね、無茶なこと言う人間ばっかなんだよ、変人ばかり集まってくるの、うちのサッカー部。伝統』
えっ、なに、この娘。
サッカー部関係者!?
冬服の制服着てるってことは、引退した3年生まねーじゃー、
『ボール貸して』
「え、え、(;´Д`)」
はじめて会ったばかりのわたしからサッカーボールを強奪して、なにやら大声でグラウンドのマネージャーやら選手やらを罵倒し始めた。
なにこの娘。
「どおおおおおりゃああああああっ!!」
『もーっ、パンツ見えるってば、藤先輩w』
「ばーか、あんたらの距離と低さだと、見えないよ!!」
「( ゚д゚)」
「わたし藤村。見ての通りあいつらの先輩マネジで、こんど大学受験の、脱・JKが時間の問題な3年生。文系。」
「(; ゚д゚)」
「あなたは? 見たところわたしと同じ高校3年だと思うんだけど。予備校や宅浪だったらごめんなさい」
「そう、3ねんせい」
「名前は?」
「は、葉山……」
「ふーん、なんか聞いたことあるかも」