放課後、
公共交通機関を使って、
ハルくんが練習しているグラウンドまで、
足を伸ばした。
「アカ子ちゃん!!
よかったね、あすかちゃんいないよ」
「マオさんっ、もうっ。
そういう言い方しないでくださいよ。
わたし、あすかちゃんと顔を合わせてもぜんぜん平気なんですからね。
なんの不都合もないんですからね」
「勇気、いらないの?w
かつての恋敵(こいがたき)だよっ」
「そういう言い方はよくないと思うんですけど(ピリピリ)」
「うん…、
そうだよね。」
「な、なんですか、急に神妙な面持ちになっちゃって」
「話はぜんぜん変わるんだけどさ、」
「はい。」
「わたしーー卒業したら、実家を継ぐことに決めたよ」
「実家って、『笹島飯店』…」
「そ。
すこしはやい気もするけど、
もう決めちゃったんだっ」
そう言ったマオさんの顔に、
迷いは少しもなかった。
石段に座って、サッカー部の練習風景を観察する。
走ったり。
転んだり。
からだがぶつかりあったり。
あすかちゃんみたいに、スポーツ新聞部の記者になって、デジカメで被写体を写しとってみたいと、少し思った。
× × ×
練習終了後
ハルくんが、グラウンドから出てくるのを、
先回りして、待ち構える。
「!」
「お疲れさま。」
「…来てたのか、きみw」
「ねえ」
「何かな、手短に」
「いっしょに帰りましょう」
× × ×
「あんまり大胆な行動はとってほしくないな」
「あれが!?
グラウンドの外で、あなたを待っていただけなのよ」
「でも出てきたら眼の前にきみがいるじゃないか。
おれときみが出払ったあとで、きっと大騒ぎになってるよ」
「だれが大騒ぎするの」
「ほかのヤツらに決まってるだろ」
「サッカー部の?」
「当たり前だよ。
それに、サッカー部以外にも。
おれの学校、狭い世間なんだぞ。明日なにを言われるかわかったもんじゃないよ」
「わたしの学校のほうが中・高あわせても規模は小さいはずなんだけれど」
「そーゆーこといってんじゃないんだよっ!!」
「ふふっ…w」
「なに笑ってんだ」
「ごめん、
いまのあなた、ちょっとかわいかったww」
彼は、わたしの顔をまっすぐ見つめて、しばらくそのままでいた。
「……」
「ところで」
「なんですかアカ子さぁん」
「ハルくんっ」
「な、なにキレてんだよ」
「呼び捨てにして」
「…、
…、
…アカ子、大会のことが言いたいんだろ」
「あなたにしてはカンが冴えてるわね」
「アカ子っ」
「ーー今までにない、怒りかた。
あなた、そういう怒りかたもできたのね。
好きだわ。」
「ーー好きって、なにが!?」
「(くるり、と前を向き、雲を見上げて)
惜しかったね、試合。
負けちゃったけど、わたしはがんばってたと思う。
あなたが一生懸命やってたのが、伝わってきた」
「あんなの惜しくもなんともねーよ」
「悔しくないの?」
「悔しくないわけ…ないだろっ」
「…あなた、素直でいいわよねw」
「…きみはそんなに素直じゃないよな」
「あなたの前だと特にね」
「ねえねえ、ふたり乗りしない? 自転車」
「なにいってんだよっできるわけないだろ」