アツマくん「この前、朝のニュース番組で、スポーツキャスターとして、田中雅美さんが出てて」
わたし「田中雅美さんって、競泳の日本代表だったひとよね」
アツマくん「平泳ぎの選手だったんだよ。
で、彼女が、なぜかフィギュアスケートの選手にインタビューしてた」
わたし「いいじゃないの、『スポーツキャスター』なんだから。競泳専属の解説者じゃなくて『スポーツキャスター』という肩書きならば、いろんな競技の選手とコミュニケーションするものだし、そうであるべきでしょ?」
アツマくん「ぐ…(・_・;)」
わたし「もっとも、スポーツキャスターは、もともとなにかのスポーツを専門的に究(きわ)めてきた、選手出身のひとが多いと思うんだけど、それでも、自分に関わりの薄いスポーツも、勉強すべきだと思うわ。
田中雅美さんだって、フィギュアスケートを勉強して、インタビューに臨んでいるんだと思う」
アツマくん「ぐぅの音も出ない正論…」
なんかお説教みたいになっちゃったな。
なんでだろ。
そうだ。
「あのニュース」を知ったからだ。
わたしは、珍しく通学カバンをソファーに放り投げるように投げ出して、は~~~~っ、と、ため息をついた。
アツマくん「どうしたんだよ、元気ないぞ」
わたし「あなた、池江璃花子と同学年だって、ハルくんが落とし物取りにきたとき、言ってたよね」
bakhtin19880823.hatenadiary.jp
アツマくん「そういえば水泳っていったら、おれと池江璃花子(りかこ)って同学年だな」
わたし「どうしてここまで差がついたんだろうねw」
アツマくん「なんだとーっ」
わたし「(少し間をおいて、)藤井聡太くんがさ」
アツマくん「将棋の藤井くんだろ。最年少で新人戦に優勝したってニュースで頻繁に流れてたよな」
わたし「そうなのよ……。
(気落ちして)わたし、藤井聡太くんと同学年なの」
アツマくん「なんだ!?
藤井聡太がチヤホヤされてんのが、くやしいのか!?」
わたし「(ソファーに身を委ねて)くやしさ……とは、ちょっと違うかな。
焦燥(しょうそう)。焦り。」
眼をまんまるにするアツマくん。
なによ、そのポカーンとした顔。
アツマくん「何いってんだ、おまえ!?
藤井聡太の活躍とじぶんを重ねて、『なんでわたしはまだ……』とか焦ってんのか!?
アホちゃうか?」
わたし「な、なによ、説教してんの!?」
わたし、じぶんの好きなひとに、『アホ』呼ばわりされて気持ちよくなるような、そんな性癖持ってないわよ!!!!!!
アツマくん「アホが言い過ぎでもさー。
いくら藤井くんが若くして活躍してるって言ったって、将棋や囲碁の世界は特別な世界だって、わかるだろ?
羽生善治だって中学生でプロ入りしたし、あの加藤ひふみん(一二三)だって中学生プロ棋士だったんだろ。
特殊な世界だと思うよ、やっぱり。
おまえは――『ヒカルの碁』って漫画、知らないか。」
アツマくん「あの漫画、中学生で囲碁のプロ棋士になるやつがガンガン出てくるし、そこらへんはマンガなんだけどさ、いっぽうでジャンプの漫画にしてはリアルなところがあるんだよ。
主人公のヒカルが、中学生でプロ試験を受ける前に、『院生』っていう身分になるんだけど、とうぜんプロになれない『院生』も出てくるわけで。
奈瀬明日美(なせあすみ)っていう、おまえと同年代の女の子の『院生』が出てくるんだ。
おまえより美人なんだぞww」
わたし「え、漫画のキャラでしょ!?」
アツマくん「じょーだんじょーだん。
おまえのほうが奈瀬明日美より美人だよ」
わたし「・・・・・・え、え、え、ちょっとまってよ、『漫画のキャラなのが冗談』なんじゃないの!?」
はなしが逸れすぎ……。
だけど。
わたし「アツマくん、『ヒカルの碁』の単行本って、この邸(いえ)にある!?」
アツマくん「あ、あるけど、どうしたんだよ、血相を変えて――」
わたし「全巻持ってきて、その奈瀬って娘が出てくるところ見せて」
アツマくん「(゜o゜;)」
アツマくんに、ジャンプ・コミックス版『ヒカルの碁』全23巻を持ってきてもらった。
わたし「(焦りながら)こ、この娘が……奈瀬って娘??」
アツマくん「そうだぞ。でもここらへんから終わりに向かうに連れてケバくなってくんだよな」
わたし「この絵を描いたのは、『おばた けん』……っていう読みの、」
アツマくん「『おばたたけし』、だよ」
わたし「ちょっとまって、この小畑健(おばたたけし)っていう人、信じられないぐらい絵が上手くない!?」
アツマくん「それは当たり前なんだよなあ」
わたし「へ?」
アツマくん「・・・・・・18巻の表紙の奈瀬明日美は、しょうじき、おまえより美人だと思う。でも――」
わたし「比べるとかそんなんじゃなくて、ファッション雑誌の読者モデルでもこんな美人な高校生いないでしょ、よく知らないけど。
葉山先輩が黒い笑いを浮かべそう」
アツマくん「最後までひとのはなし聞けよ(;´Д`)」
わたし「(テーブルに身を乗り出して)ちょっと17巻以前の彼女が出てる場面を見せて」
『ペラペラペラ…』
わたし「ん~~~~~~」
アツマくん「お、おい、本気でヤキモチ焼いてんじゃないだろうな!? 漫画だぞ!?」
わたし「そうだった!」
わたしらしくない。
アツマくんが言おうとしたことも、さえぎっちゃった。
アツマくん「あのさあ。」
わたし「?」
アツマくん「ヒカルがプロ試験で闘ってたころ、やっぱり奈瀬明日美も『院生』だからプロ試験に参加してるんだけど――」
アツマくん「第11巻とかだったかな。
そのころの奈瀬が、いまのおまえに近いんだよ。」
わたし「(いぶかしげに)…ルックスが?」
アツマくん「ルックスが」
わたし「それは褒め言葉ですか、アツマさん」
アツマくん「もちろん」
わたし「……(・_・;;)」
アツマくん「愛嬌なんだよ、愛嬌。
18巻の表紙の奈瀬明日美に足りないのは。」
それって。
つまり。
わたし「アツマくんのいいたいこと要約すると、
『いまのおまえは、綺麗なだけじゃなくて愛嬌もある』。
なにそれ……、
褒めちぎり。」
いじわるアツマくん「ほら、また嬉し泣きしたw」
泣き虫なわたし「(クッションに顔を埋めて)アツマくんのいじわる」