まあ、文化祭の前日なわけだけど、とくに校内に夜中まで居残ることもなく(ましてや徹夜なんて!)、もう少し明日の準備をやっていくクラスメイトにエールを送って帰った。
……暗黙のうちに「帰らされた」 といえるかもしれないけど(-_-;)
ただ、放課後、あす再度対決するはずの葉山先輩と、音楽室で、ふたりだけの秘密の約束をした。
しょうじき、対決ムードをないがしろにしてしまっている、という意識はないとはいえないけれど、
未遂で収拾がついたとはいえ、葉山先輩は電車の中と交番で事件を起こしてしまってからの、まだ病み上がりだし、
もう、リベンジとか、勝ち負けとか、ホントのところはどうでもよくて、
葉山先輩のほうでも、口ぶりからして、たぶん、おんなじような気持ちなんだと思う。
とはいえ、3本勝負のなかに「お料理」が入っているのだから、かなーり本気を出して、夕飯を作ってみた。
まあ、戸部邸住まいのみんなから、作った料理のお味について御意見をいただくという、そんな魂胆だ。
あすかちゃん「美味しいっていうしかないですよ。というか、いつものお姉さんのハイクオリティな料理との違いがわかりません」
あすかちゃーん、しょうじき、それじゃ困るんだなー(^_^;)
流さん「豚汁がーー」
わたし「豚汁が??」
流さん「いや豚汁というか、味噌汁のダシなのかなあ。
この前、お酒を飲んで帰ってきたときに愛ちゃんが作ってくれた豆腐と長ネギの味噌汁と比べると、マイルドな味わいな気がする。
優しい味だね。
愛情がこもってる」
わたし「やだ~それほどでも~ww」
内心、ほっと胸をなでおろした。
ありがとう流さん……。
流さん「そうか、ぼくがお酒を飲んで帰って来たあとの時は、あえて口当たりの強い風味にして、酔いを覚まさせるような効果を狙ったのか」
わたし「・・・・・・( ;∀;)」
明日美子さん「わかる! 酔っ払ったあとって、パンチが強い味噌汁のほうが効くよね!!」
わたし「・・・・・・( ;∀;)」
空気を読めない男「……逆じゃね?」
チッ💢
空気を読めないAくん「酔っ払ったあとのほうは、理屈でいうと、きょうのみたいにマイルドで優しい味わいの方を、胃袋が受け付けるんじゃねーの?」
💢💢
あすかちゃん「胃袋じゃなくて口当たりの話してるんじゃん……」
愚兄「でも口に入ったあとは食道から胃袋に行くって決まってるだろ」
愛するあすかちゃん「そういう問題じゃないでしょ!? あいかわらず文脈が読めないわデリカシーがないわ💢💢」
明日美子さんと流さん『(・∀・)ニヤニヤ』
恩知らず「な、なんだよその目つきは母さんも流さんも」
流さん「そのアツマの意見は、酒を飲んだことがない子供の意見だな」
アツマくん「うっ」
アツマくん「そ、そんなこと言ったってーー、
作った愛だって、酒を飲んだことがない子供じゃねーか、しかも愛は俺よりふたつも年下」
明日美子さん・流さん『わかってないねえ~w』
アツマくん「わ、わかんねえよ!」
わたし「いつの頃だったかしら……。
羽田家の食事は『輪番制』だったのよ。まだ利比古(としひこ)がほんとうに小さい頃だったから、おとうさんとおかあさんとわたしの3人で、晩ごはんもローテーションで回してたの」
あすかちゃん「その環境がお姉さんの料理の腕を育てたんですね!!」
わたしはあすかちゃんの顔を見てガッツポーズした。
わたし「……おとうさんやおかあさんが飲み会とかで帰ってくるのが遅い時は、わたしが夕食当番でね。
とくにおとうさんは飲みの付き合いが多かったから」
アツマくん「あ! そういうことか」
わたし「そういうこと! 酔って帰ってくる大人のことを考えて料理を作ることが多かったのよ。
ーー試行錯誤や、失敗の、連続だったけど、はじめは」
アツマくん「そっか、なにもないところから、凄腕の料理人が生まれるわけじゃないよな…(´・ω・`)」
わたし「お料理もピアノも努力しかしてないわよ」
アツマくん「そうですか…(^_^;)」
天才なんていない。
全教科で100点満点取れるような、天才なんて。
ただーー、もしかしたら。
葉山先輩は、天才のような存在に近いかもしれない。
それと引き換えに、狂気があってーー。
わたしも病んだ面がないとはいえない。
さやかなんかは、そんなところがあるなー。
(さやかがバイオリンめちゃくちゃに弾いて倒れたとき、さやかと確認し合ったっけ)
だから、
葉山先輩が狂気で苦しんでいることが「共感できない」なんて、絶対思えないし、思っちゃいけない。
むしろ、葉山先輩の苦しみを、少しでもーー
わたし「アツマくんまだ不服そうね」
アツマくん「ま、母さんや流さんが、愛のほうが『わかってる!』って言うから、そういうことなんだろ。
でも、理屈としては、なっとくできねーなあー」
わたし「まぁ、調理師学校の先生だって、真反対のことを言う人だっていっぱいいるでしょうねー」
アツマくん「おれの中では賛否両論」
わたし「は?」
アツマくん「おれのあたまのなかで意見が分かれている」
わたし「……賛成か不賛成か、脳内テレゴング*1でもやったら?」
アツマくん「えーっと、」
わたし「? まだなにか不服なことが」
アツマくん「いや、」
アツマくん「おまえさ、ほん◯しとか、ダシの素は絶対使わないんだな」
わたし「否定はしないけど、わたしはかならず自力でダシをとってるわね」
アツマくん「それは否定的ってことのあらわれじゃないのか…」
わたし「だってダシから自分でとらないと気がすまないんだもんっ」
アツマくん「そ、そうか……(^_^;)
ま、そういうところからして、
おまえは本物の料理人だよ、愛。」
わたし「……『料理人』なんて、大げさな。
ひゃっ!」
愛するアツマくん「ど、どうした、大丈夫か!?(゜o゜;」
わたし「だいじょうぶ、お皿洗う水をお湯にし忘れて、冷たいのがいきなり出てきただけ」
愛すべきアツマくん「ああ、おれが大げさなこと言ったから、不注意になって冷たい水出しちゃったんだな」
大げさなことが……、
いちばんうれしいよ、アツマくん。