いよいよ文化祭も数日後に差し迫り、学校は文化祭に向けた準備のムードで一色になった。
まだ葉山先輩は気がかりだが、 けっきょくわたし以外に葉山先輩への挑戦者はあらわれずーー既定路線かなーー、
- クイズ
- お料理
- ピアノ
の3本勝負で盛大に挙行される(予定だ)ということは既に全校じゅうに知れ渡ってしまっており、
そんな感じなので、わたしはクラスメイトの子に「配慮」をしてもらってる。
「配慮」というのは、『あんまし羽田さんにクラスの出し物のほうの準備で負担をかけさせたくない』という、クラスメイトの親心……。
(A)なぜか家庭科室がわたしと葉山先輩のために差し押さえられており、
(B)とある空き教室の扉に「個別自習室」という若干わけのわからない貼り紙が貼ってあって、これは暗に「葉山先輩と羽田さんはこの部屋をクイズの勉強に使ってください」ということを示しているらしく、だいいち「クイズの勉強」っていう日本語が不自然で、謎だし、
(C)問題の音楽室はけっきょく昨日の放課後からわたしと葉山先輩の連名で当日まで予約埋めということに相成り、
ーーなんか、こんな突発企画のために、(またも)周りの人間を大勢巻き込んでしまっている感じがして、クラスメイトはじめみんなが気の毒だ。
やっぱり、出し物の準備でクラスメイトを「使役」してるみたいで、良心が痛む。
そのかわりーーというか、わたしの分まで、ということなのだろう、アカちゃんが、クラスの出し物の「陣頭指揮」みたいなことをやっていて、寒くなってきたし(もちろん制服は冬服の季節)、風邪をひいてしまわないか心配。
もし。
もし、さやかが、今のわたしのような立場だったらーーたぶん、
「『配慮』なんて要らないからっ!」
ってタンカを切って、猛烈に出し物を手伝う一方で、
クイズ用(??)自習室で本の虫になり、
さやかはピアノ弾かないからバイオリンになるけど、とにかく葉山先輩がピアノ弾いてる横でバイオリンを弾きまくり特訓に余念がなく、
そして、夜遅くまで家庭科室で料理の研究をして……、
本番の前に、ぶっ倒れちゃいそう。
それじゃあ意味ないよね。
さやか、だれかに頼るのも、あなたの義務よ。
ーーとかなんとか、さやかの眼の前で言っちゃったら、さやかどんな反応するかな、怒るかなあw
「はーやませんぱーい」
葉山先輩「あ、戸部くんの彼女さんだ」
顔から火が出るのを自覚し始めるわたし「いきなり先制パンチですか?!
暴力は反対です」
葉山先輩「べつに言葉の暴力で攻撃するとかではなかったんだけど。
それに、あなたこそ戸部くんを時々ポカポカ叩いてるらしいじゃ~ん」
あたまが炎上中のわたし「だれがそんなこと言ったの!?
た、たしかに、折檻(せっかん)は、否定できないですけど、わたしだってアツマくんに叩かれたこと、あるし」
葉山先輩「( ゚д゚)」
葉山先輩「……サドマゾ?」
わたし「違います!
大昔。大昔ですよ、おおむかし」
葉山先輩「それいつ」
わたし「きょねん」
葉山先輩「きょ、きょねんがwwおおむかしwww」
わたし「根性のある人だけ過去ログをほじくってください!」
葉山先輩「( ゚д゚)キョトーン」
わたし「あ、すみません、今のは独り言です(-_-;)」
わたし「せんぱい、メロンソーダおごってあげますよぉ。せんぱいは先週末くらいからいろいろ大変なことになってましたからねえ」
そう言ってわたしは自販機でメロンソーダとジョージ◯エメラル◯マウンテン◯レンドを購入し、葉山先輩のとなりに腰掛けた。
葉山先輩「ごくごくごく」
葉山先輩「はーっ、」
葉山先輩「ま、電話で羽田さんと話した時に打ち明けたのが半分と、先生とか関係各所が羽田さんに漏らした情報が半分ってところかしら」
わたし「ご名答。でも、いずれバレる運命でしたよ」
葉山先輩「たしかにね……」
わたし「本読んでたんですか?
あ、これ……庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』。」
葉山先輩「の、初版本ね」
わたし「うわぁ~、わたしこれ文庫版しか持ってないんですよ~、古本屋で買ったとかですか?」
葉山先輩「家にあった」
わたし「帯に『¥360』って書いてあるのが時代を感じる」
葉山先輩「消費税なんてもの、なかった時代」
わたし「ですね」
葉山先輩「佐藤栄作」
わたし「そう、佐藤栄作の長期政権」
葉山先輩「いつ最初にこの小説読んだかなあ。たしか、ここの中等部に、入るか入らないかだったかな?」
わたし「あ、わたしもそうでした。小学校6年か中等部の1年」
葉山先輩「じゃあ、わたしと同じ年齢ぐらいで」
わたし「わたしたち、庄司薫に関しては同級生ですねw」
葉山先輩「いいえ、わたしのほうが2年早く生まれてるから、どっちみちわたしのほうが2年先輩になるよ」
わたし「いじわる(-_-;)」
葉山先輩「わたしねえ・・・・・・w
日比谷高校に、聖地巡礼したことがあってwww」
わたし「う、嘘でしょ!?」
葉山先輩「まー校門の前のあたりを軽くのぞいてみただけよ」
わたし「ほんとのほんとでお巡りさんが来ちゃいますよ、気をつけてください」
葉山先輩「ふふ…」
わたし「あんなところに特攻なんてわたししません、たとえこの本がわたしにとって愛読書のひとつと言えるからって」
葉山先輩「愛読書なの?」
わたし「信者やシンパじゃないですけどね」
葉山先輩「まぁ、1969年という時代背景、それに語り手の『薫くん』は日比谷高校3年生で、しかしながら東京大学の入試が中止になってしまったと」
わたし「わたしのおとうさんもおかあさんも生まれてないような頃だし、安田講堂があんなことになってるのも映像でしかもちろん知らないわけですが」
葉山先輩「都立日比谷高校→東京大学っていうルートが大勢を占めていた……っていうと語弊があるかもしれないけど、有る種そういうのが既定のレールで、東京大学で文科一類に入れば『キャリア』路線だし、理科三類は理科三類で最高のステータスで」
わたし「研究者って道もあるでしょ。じじつ、それを目指して東大を志望するっていう人がたくさんいるわけだし。
それこそうちのクラスメイトの子にも、まだ1年生だけど、東京大学ですからね、『こういう研究がしたくて東大を目指している』っていう子、いますし」
葉山先輩「うちのクラスにもいるね~♫
落っこちるか落っこちないかわかんないけど」
わたし「ひっどいこと言いますねえ!」
葉山先輩「・・・・・・・・・わたし、大学受験、しないかもしれない」
わたし「なんか、
葉山先輩なら、そういうこと言うかもしれないって、わたし思ってました。」
葉山先輩「ま、その話は、文化祭が終わったあとにでも。考え方は日々変わるものだし。
『由美ちゃん』。」
わたし「薫くんの、幼なじみ。」
葉山先輩「わたしずーっと由美ちゃんに自分を『仮託』して読んだりもしてきたんだけど。
ほら、12、3歳前後って、まさに小6か中1……思春期だったか反抗期だったかもうごちゃ混ぜになって思い出してるけどさ、精神以上に身体が変化して、男女の性差ってのが、いよいよ浮き彫りになっていく」
わたし「そんなシーンもありましたねえ。由美ちゃんと薫くんの絡みで」
葉山先輩「あったあった」
わたし「(村上)春樹の『ノルウェイの森』で、直子がワタナベくん(語り手)に向かって、おんなじようなこと言ってませんでした?」
葉山先輩「忘れちゃったけど、似たような経験、直子が語ってたかもしれないね」
わたし「『赤頭巾ちゃん』に話を戻すと、わたしは由美ちゃんより胸の性徴は早かったですよ。」
葉山先輩「生理は?」
わたし「…………なんてこと言うんですか、女子校だからって!!!
ひ、秘密ですけど、秘密ですけどっ!!
(小声でひそひそと)中学受験の勉強の追い込み時期ぐらいだった…かな」
葉山先輩「小6の今ごろ」
わたし「( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン」
葉山先輩「ひきょーものー、めうえのにんげんをはたいたはたいた」
わたし「さやかにですね」
葉山先輩「青島さやかさん?」
わたし「そうです、さやかに今みたいなネタ振ったら、ただじゃ済まされませんよ」
葉山先輩「さやかさん、身長何センチ?」
わたし「そこですか? さやかは162です」
葉山先輩「ふーん、だいたいわかった。
身長が少しあなたより高いかわり、発育はちょっち遅くて、
で、ここ受かって、小学校の卒業式が終わっても、なかなかこないから、焦り続けていたと……こんなところか」
わたし「そうそう、デリケートですから、はてなブログの枠を超えますからね」
葉山先輩「なんの枠を超えるかどうかは意味不明なんだけど……
中1の6月か7月ってところか」
わたし「なんでそんなカンが鋭いんですか(;´Д`)!!」
葉山先輩「そりゃ女性のカンでしょ」
わたし「さやか、むしろ怒るより、泣いちゃいますよ(-_-;)」