わたしは部活に入っていない。
授業が終わったら、原則として、まっすぐ自宅に帰る…、
いわゆる「帰宅部」。
昔は、それでよし、としていたのだけれど、
高等部になって、愛ちゃんが文芸部に入り、活躍するようになってから、
『放課後の時間に、なにもないのは、むなしいな。』
と思ったりするようになった。
放課後がヒマなので、時には、
さやかちゃんを自宅に誘おうとした。
さやかちゃん、蜜柑に会えたらうれしいだろうし。
でも、さやかちゃんのほうで都合があったり、さやかちゃんの教室に行ったら、もうすでに居なくなっていたりして、すれ違いになって、いまだに放課後に彼女を自宅に招くことに成功していない。
さやかちゃんといえば、さやかちゃんも昔は弦楽部に入っていて、部活をしていたのよね。
わたしもーーなにか、部活をしたほうがいいのかしら。
でも、高2の2学期で、いまさら、飛び入りでなにか部活に入部するというのも……。
出来上がっているコミュニティ、じゃあないけれども、部活というグループの和を乱してしまうような気がしてならない。
こんな時期から部活始めるなんて、非現実的なのよね。
あ、
その点、愛ちゃんの文芸部は、「来る者拒まず」的なムードを常にかもし出している。
顧問が、伊吹先生っていうのもね……w
文芸部なら、いつでも歓迎してくれそう。
たとえ、いつ入ってきたとしても。
ーー、
とは、思ったりも、するものの。
放課後の有意義な時間の使いかたは、
部活動だけじゃない気がして。
× × ×
きょうの放課後、
とある河川敷に、わたしはいる。
ここら辺は、葉山先輩のお家に比較的近く、
ハルくんやあすかちゃんの高校からも、比較的距離が近いらしい。
その河川敷には、グラウンドがある。
ハルくんのサッカー部の練習場所になっているということは、もちろん知っていた。
……ある程度覚悟はして、ここに出向いたんだけれど、
サッカー部の練習風景に、
あすかちゃんの姿は、混じっていない。
きっと、野球部や、あるいはラグビー部の取材で、忙しいのかもしれない。
「ーーよかったね、あすかちゃんがいなくって」
「ひゃあ! びっくりするじゃないですか、マオさん」
× × ×
「別に、あすかちゃんに、いてほしくないわけでは、ありません!」
「気まずくないの?」
「歩み寄らないと…」
「真面目だね、アカ子ちゃんは」
「あすかちゃんはラグビー部の取材だと思うよ」
「やっぱり。ワールドカップが近いからかしら」
「それもある。
ねえ、知ってる? サッカーとラグビーがもともと、同じスポーツだったって」
「知ってます。
わたし図書館まで行って、百科事典で『フットボール』の項目を引いて調べたんですよ」
「え、∑(・∀・; )マジデッ」
「でも大変ですね『スポーツ新聞部』も。
あすかちゃん、自分の学校の部活に加えて、ラグビーワールドカップもそうだけど、プロ野球とかJリーグとか、いろいろなところに目を配らなくちゃならない」
「ソースケも酷使するよねずいぶん」
「ソースケ…って、部長さんのことですよね」
「そう。
でもあすかちゃん本人は楽しんでやってるみたいだから。
キラキラしてるなw」
「キラキラ、かーー。
わたしは、どうやったら、自分自身を輝かせることできるんだろう」
「(少し呆れたように、)アカ子ちゃんも、もう充分キラキラしてるじゃん」
「えっ?」
「ほら、下(グラウンド)のサッカー部員のやつらの動きが、緩慢になってる」
「それがどうかしたんですか?」
「わかんない?
アカ子ちゃんに見とれてるんだよ」
「か、か、か、
からかわないでください」
「からかってないよ、真実はいつもひと~つ」
「見られてるってーーわたしのほうが恥ずかしいですっ、
ま、マオさんは怒らないんですか!?」
「面白いもんw しばらく泳がせておく」
「(力なく)泳がせておくって……」
「ーーで、そんななか、ハルだけが、黙々と走り込み続けている」
「わたしが来たのに気づいてないくらいがんばってるんですよ、
きっとそうですよ」
「や、わたしは、ハルは気づいてるって思う。
でも、ハルが、他のやつらと違って走り続けているのはーー、
アカ子ちゃん、アカ子ちゃんがキラキラしてるからだと思うよ。」
マオさんの強引なロジックに、
わたしは肩をすくめる。
ーーそして、わたしは、あらたまったような姿勢になって、
こう言うのだ。
「ハルくんが、いちばんキラキラしてますよ」