戸部邸の夕食
- わたし
- アツマくん
- 流さん
- 明日美子さん
の4人で食卓を囲む。
あすかちゃんはーー、
「ところで、あすかどうしたんだ」
「なんにも聞いてないの? あっきれた。
久里香(くりか)ちゃんと遊ぶ約束してて、出かけたのよ。
晩ごはんも、久里香ちゃんといっしょ」
「ああ、あすかの中学の同級生だった子か」
「会ったことあるでしょ……」
「あるよ」
「じゃあ今思い出したような言い方しなくてもいいじゃない💢」
「まあまあ、愛ちゃんw」
「流さぁん、アツマくん、ひどくないですか~」
「たしかに。
でも、じつは僕も、あすかちゃんには本当に失礼なんだけど、」
「?」
「あすかちゃんって、同い年の友達、少ないのかなあっていう、疑念があって」
「そそそそそそそそんなことないですって!! 普通に同級生の女の子と遊んでますから!!」
「今風の言葉で、『ぼっち疑惑』ってやつ?」
「アツマくんはほんとうにひどいね💢💢」
「まあ、それはいいとして、」
「急に話を変えないでよ」
「すき焼き風の煮物って、珍しくないか」
「わたしがつくった夕飯のおかずの話!?」
「そう、おまえが作ったすき焼き風の煮物の話。」
「め、珍しいことは別段ないと思うけど。
た、ただ、頻繁には作らないよね、アハハ」
「そうかもな。
ところで、
おれ、思うんだけどさ。
おまえがすき焼き風の煮物を作るときって、なんだか特別な理由があって、作ってるような気がするんだよな」
「どうしてわかったの……。
アツマくん、名探偵?」
流さんと明日美子さんが、
必死に笑いをこらえている。
「じゃあ、特別な理由があるんなら、いったいなんだよ?」
「た、たべおわってから、はなそうね、そのことは」
「まあーー、
『すき焼き風の煮物は実はおとうさんの得意料理で、おとうさんが恋しいときに限って、すき焼き風の煮物を作る』
こんなところなんだろ」
「どうして、どうしてわたしの心が読めるの!?」
「ーーあのなー。
超能力使ってるわけじゃないんだよ。
愛、おまえがここに来てから、もうすぐ丸3年なんだぞ?
経験っつーもんだよ、経験!
それにさ……。
前に、おまえがキッチンで、すき焼き風の煮物を作っているところを通りかかったことがあったんだけどさ、
おまえ……遠くの空を見るような顔してた……なんというか、すごく『いとおしそう』な眼をしてた。
おとうさんが、いとおしかったんだなw」
「守くんの得意料理だったのよ、すき焼き風の煮物w」
「じゃあ、アツマくんは明日美子さんからーー」
「わたしはなんにもいってないよ?ww」
「愛ちゃん。」
「は、はい、流さん。」
「アツマがそれだけ、愛ちゃんのことを理解できてるってことの、裏返しだと思うよ。これは」
わたしは少しだけうつむく…。
「だから、アツマは、偉いと思うよ、僕は」
アツマくんを、
ほめてあげたほうが、
いいのかな。
いや、
ほめる、べき、
なんだろうな。
「おれ、自分で自分をほめてあげたい」
「そのセリフはアトランタで42.195キロ走ってから言いなさいよ💢」