「ーー家庭教師しようと思ってたんですか!?
センパイが!?
わたしの!?」
『でもこのご時世だと、しばらくできないね』
「センパイに頼らなくったって大丈夫ですよ」
『ホントか~~?ww』
× × ×
…本音を言うと、
頼りたいときは、
誰かに頼りたい。
人はひとりで生きてるわけじゃない。
わたし、弱いばっかりじゃないけど、実はそんなに強くもないし、脆(もろ)い存在なんだと思う。
この邸(いえ)に来てーー3年半が経った。
中等部のころに比べると、精神面で、おとなになってきた感じがする。
それにーー関係ないかもしれないけどーー髪が伸びた。
違うな、伸びたんじゃないなw
自分で伸ばしたんだ。
わたしの栗色がかった髪、「ステキ!」って言ってくれる子もいるけど、半分、コンプレックスでもあった。
アカちゃんみたいなサラサラの黒髪がうらやましかった。
ーー嫉妬じゃないよw
そんなことをひとりで考えながら、姿見を見て、ヘアゴムで髪をセットしていた。
× × ×
利比古がまたあすかちゃんを怒らせたらしい。
どうにか、収拾はついたみたいだけど。
先が思いやられるな。
ここに来たときから、わたしはあすかちゃんと仲が良かったから。
時たまケンカもしてきたけど、さ。
ま、些細なすれ違いだって、日常を美味しくするスパイスでしょう。
そういえばーーふたりとも中学だったときは、よくいっしょに寝ていた気もするけど、最近はそういうこと滅多にしなくなった。
それは距離感、の問題じゃなくって、お互いに成長したことの証(あかし)なんだと思う。
ちょっと恥ずかしいけど、この邸(いえ)に来たばっかりの頃は、しばしばホームシックになってた。
家族3人と、いきなり離れ離れになっちゃったんだもんね。
そんなとき、あすかちゃんだけでなく…明日美子さんにも添い寝してもらうことが多かった。
中学生にもなって…! って、自分が情けなかったけれど……不思議と、明日美子さんの部屋のダブルベッドに入ると、自己嫌悪が消えていって、すぐにスヤスヤ眠りに落ちていくことができた。
朝になって起きたら、明日美子さんのからだにしがみついていた、っていうパターンも結構あった。
ときどき、ほんとうにときどきだけど…起きたら、明日美子さんの胸に顔をうずめていたとか、恥ずかしい経験をすることが、
今でもある。
『甘えてる!』って言われればそれまでだけど、人間って案外、本質的に甘えんぼうなんじゃないかって、思うこともある。
でも、
とある時期をきっかけに、
明日美子さんよりも、アツマくんのからだにしがみつくことのほうが多くなった。
動機はいろいろだ。
ほんとうに助けを求めて、アツマくんのからだを頼ったことは何度もあった。
寄り添いたいから寄り添ったときもあった。
アツマくんとの「かかわり」がもっとほしくて、スキンシップを取ったことだって、何度も。
ーーあすかちゃんの失恋の傷はもう癒えたと思うけれど、
あすかちゃんにも、「そういう存在」が早くできたらいいのに、とわたしは思う。
お兄さんのアツマくん以外に、ね…w
× × ×
キッチン
「あすかちゃんもう下ごしらえやってるんだ。
手伝おっか?」
「ダメです、今晩の当番はわたしですから」
「厳しいねえw」
「当番(とうばん)に登板(とうばん)、なんちゃってw」
「あすかちゃんwwwwwダジャレwwwwwうまいwwwww」
・ひとしきり2人で笑い声を上げる
× × ×
「教えられてばっかりじゃ、ダメだと思うので。
おねーさんみたいに上手くできなくても、誰の手も借りずにやらなきゃ、意味ないと思うので」
「誰の手も借りずにーーか。」
「? どうかしましたか」
頼りたいときに頼るのは、正しいことだけど。
「誰の手も借りずに」挑戦することも、ときには必要なんだよね。
バランス感覚が、難しい。
調味料のサジ加減みたいに。
「…意味ないってことはないと思うけど、やっぱりひとりでできるようになることも大事だよね。
頑張って。」
「(^O^)ハイ!!」
「わたしはテーブルで読書でもしてるから」
「(^O^)ハイ!!」
~10分経過~
「(わざとだしぬけに)でもさあ」
「なんでしょうか? おねーさん」
「もしかしたら、さやかよりも料理上手かもね」
「えっ、誰が!?」
(^_^;)決まってるでしょ……
あなただよ、あすかちゃん。