【愛の◯◯】トヨサキくんを追い詰めるしかない

 

学祭(がくさい)の本番が着実に迫っている。短縮授業の後はクラスの出し物の準備だ。わたしたちのクラスは『ベースボールパークカフェ』を開くコトになった。名前の通り、コンセプトが野球のカフェで、女子も男子も野球ユニフォーム的なモノに身を包んで接客をする。

本番が着実に迫っているといえど、まだ1週間は準備期間があるので、今日の放課後は当日の席配置などを決める話し合いに充(あ)てられた。

席配置についてわたしが意見を言っていたら、右横の椅子に座っている親友の美星(みほし)がわたしの制服の袖をちょいちょい、とつまんできて、

「そろそろ【第2放送室】に向かってもいいんじゃないの? トヨサキくんはあそこにもう入ってるんでしょ?」

わたしは美星に顔を向けて、

「それもそーか」

美星は苦笑して、

「【第2放送室】で待ってるように指示したのはタカムラなんじゃん。待たされ過ぎるとトヨサキくんが可哀想だよ」

わたしは思わず、

「可哀想なのは……トヨサキくんじゃないよ。トヨサキくんのせいで可哀想になった子がいるんじゃん」

『事件』のコトはもう拡散していて、同学年の生徒の多くに共有されている。わたしが『事件』のコトに思わず言及してしまったので、周りの椅子に座るクラスメイトが興味津々そうにわたしを見てくる。

 

× × ×

 

番組制作のためのノートにトヨサキくんは眼を凝らしていた。

【第2放送室】入室から約1分後のわたしは出入口付近からミキサーの端っこへと近付いていく。部屋の奥側のミキサーの端っこでトヨサキくんが椅子に腰掛けてノートに視線を落としている。

彼が見ていたミキサー上(じょう)のノートを即座に掴み取る。

ノートを奪われた彼は顔を上昇させるコト無く、

「強奪するなよ」

とわたしに対して不満を示す。

不満を示したトヨサキくんの声にチカラは全く籠(こ)もっていなかった。

「トヨサキくんは相手の眼を見ながら話せないんだね」

わたしはそう強く言って、それから、

「今みたいに情けない態度で、『彼女』に対して煮え切らないコトを言ったんでしょ。簡単に想像できちゃうよ」

トヨサキくんは非常に苦い顔になって、

「この部屋を……説教部屋にするつもりか」

「うん」

即座に頷き言うわたしは、

「逃げられないよ、キミが反省のキモチをじゅうぶんに示すまで」

 

× × ×

 

トヨサキくんは後輩女子に愛の告白をされたのだった。

告白した側とされた側の名誉のために時間帯と場所は伏せておく。

わたしが怒りを覚えるのは、トヨサキくんが「断り切らなかった」コトだ。後輩女子に対してキチンと『ごめんなさい』を言えず、曖昧な言い方で誤魔化した。トヨサキくんが不甲斐ない対処をしたのは既に多くの人間に知られている。美星を介して、わたしも『一部始終』をインプットしていた。

 

トヨサキくんの手前に立ったまま、わたしは「批判」を幾つも幾つもぶつけた。

『キミの対処の仕方はあり得ない。告白されるのに慣れてないからって』

『『ごめん』ってちゃんと言わなかったから、あの娘(こ)、ゼッタイ傷付いてる』

『あの娘まだ1年生なんだよ? 涙は流さなかったかもしれないけど、ココロの中でゼッタイに泣いてると思う』

こういう風なコトバを重ねて、固まるように椅子に座っているトヨサキくんを追い詰めていった。

「批判」しまくった喉を癒やすために、ミネラルウォーターのペットボトルをバッグから取り出してゴクゴク飲む。

それから、ほとんど項垂(うなだ)れ状態の同学年男子に再び視線を突き刺して、

「これから、どーするの!?」

と大声で言い、

「誰だって思うよ、『告白してきた彼女にもう一度向き合うべきだ』って。どういう風に向き合うのかは、キミが決めるべきコトだけどさ」

と強く追い込んでいく。

トヨサキくんは何もコトバを発しない。

視線がわたしの反対側に逸れかかっている。

視線を逸らされたわたしは手を握り締める。利き手の右手だけではなく両手を握り締める。

やがて、

「『もう一度向き合う』って言ったって、あっちの連絡先、なんにも知らないし」

という細い声がわたしの鼓膜を震わせる。

さらには、

「時間が経ったら、あっちだって、納得してくれるんじゃないかって思うし」

という弱々しい声もわたしの鼓膜を震わせる。

一歩踏み出し、情けなさが極まった同学年男子を間近で見下ろす。

ミキサーを右拳で強く叩き、ダメ過ぎる同学年男子を威圧する。

「……パワハラは、やめろよな」

視線を両膝に落としながら、トヨサキくんが反発になっていない反発をする。

「キミがあの娘にしたコトはパワハラより何倍もヒドいよ」

怒りながら早口になるわたしは、

「わたしだって『そういうシチュエーション』になったコト17年間の人生で一度も無いよ? だけどキミの対応が最悪だったって簡単に判断できちゃうよ。『想像力』って能力を使えばたちまちあの娘の感情がわたしのココロに染み込んでくるんだから。女子同士だから共感ぐらい容易(たやす)いよ。それに比べて男子のキミは何も一切わかってないよね」

と罵倒を猛スピードで繰り出すと同時に、胸の前で両腕を組む。

敢えてコトバを絶やし、トヨサキ三太(サンタ)くんという男子を隅から隅まで睨みつける。室内に沈黙と静寂を漂わせるコトで、わたしの怒りの感情を表現し、彼の反省を促す。

反省するまで帰さない。反省を具体的な形で示すまで許さない。

反省を具体的な形で示すだけでは不十分。どんな手段を使ってでも、告白された彼を告白した彼女に再度向き合わせる。

決意するから、腕組みのチカラが強くなっていく。

「……なぁ、タカムラ」

またも、彼の口から細々(ほそぼそ)とした声。

「無かったか……? 小学校時代とかに、授業中に先生が怒り出して、お説教で授業を中断させて、終わりのチャイムが鳴ってからも延々喋り続けてたコトが」

「キミの言いたいコトがわかんない。少しもわかんない」

ココロの中で『バカじゃないの』と言いながら、眼を険しくする。

激怒へと近付いていくわたしに、トヨサキくんから、

「ああいうシチュエーションと、今のシチュエーション、似てるよなって」

という浅はかなコトバが届いてくる。

「だから、わかんないってばっ!!」

額(ひたい)の辺りの血管がキレそうになるわたしは、

「このままのキミを許すコトなんかゼッタイにできない。下校時刻になっても、キミをこの場に居残らせたい」

トヨサキくんからは、

「どうやって居残るんだよ。夜までここに留(とど)まり続けたりしたら、問題になるだろ。この部屋が使用禁止になったりしたら、困るのは――」

「うるさいっ!!!」

怒鳴って、だらしない抵抗を遮る。

「キミと違ってわたしは先生方と関係良好だから、使用禁止なんてあり得ないっ。先生方をこの部屋に呼んで、キミを追い詰めるのも1つの方策」

「だいじょうぶか、タカムラ……。おかしくなってないか? そもそも、おれの身に起きたコトに、第三者のおまえが、なんでここまでこだわって……」

……こだわるよっ。

こだわらなきゃ、気が済まないのっ。

『キミだから』、こだわってあげてるんだよ?

わかってよっ。