【愛の◯◯】コーラよりもずっとずっと甘い声で

 

仲の良いクラスメイトの女子がいないワケが無い。このブログを以前からご覧になっているお方は、『きみ、毎回毎回、トヨサキ三太(サンタ)くんと絡んでばっかりだよね? 同学年の女の子と絡んでる描写が全然存在しないのは、いったいぜんたいどーして?』みたいに言われるかもしれない。たしかに、放課後は毎日のように、『KHK(桐原放送協会)』の活動の中で、トヨサキ三太くんと関わり合ったりぶつかり合ったりケンカになっちゃったりしている。でも、『同学年の女子の友達がいないんじゃないんですか疑惑』は、完璧な誤解。教室の中で窓際族で常時独(ひと)りぼっちなんじゃないの、って疑いを向けられると、ちょっとねぇ。

 

わたしは現在(いま)、放課後の真っ只中で、グラウンドを背にして、木彫りのベンチにクラスメイトの親友女子と隣り合って座っている。

仲の良いクラスメイトの女子がいないワケが無い証拠である。

そよそよと風が吹いている。わたしは右耳の下あたりの髪を右手で整える。視線が右寄りになったから、わたしより髪が短くて身長が少しだけ低い美星(みほし)の顔が眼に入り込む。

わたしたちの背中のグラウンドでは男子がソフトボール大会を繰り広げているから、

「呑気なもんだよねー。学祭(がくさい)に向けて準備のピッチを上げていかないといけないのに。クラスの出し物の準備とかに協力する気が一切感じられなくて、イヤになっちゃう」

と親友女子・美星が言ってきて、

「タカムラも、そー思ってんじゃないの?」

と同意を促してくる。

わたしは左手をヒラヒラさせながら、

「後ろの男子のコト言えないでしょ。わたしたちだって、こうやって呑気にサボってるんだから」

と苦笑い混じりに美星に言う。

美星の顔も苦笑い混じりになって、

「わたしはあと25分したらクラスの手伝いに行くよ。――タカムラは、このあと旧校舎の【第2放送室】か」

「そーだよ。クラスじゃなくて、『KHK』の手伝い。自分のクラスの手伝いを疎(おろそ)かにしちゃってるみたいで、みんなに申し訳無いけど」

わたしがそう言うと、

「申し訳無く思う必要、無い無い。クラスのみんながタカムラのコトをキライになっちゃうコトなんか、あり得ないんだから」

と美星が優しく言ってくれる。

 

× × ×

 

優しさに包まれながら、木彫りベンチからわたしは立ち上がる。

あと少ししたら、【第2放送室】に入っていってKHKの活動を始める。KHKはKHKで学祭において『やりたいコト』があるので、トヨサキくんを酷使してでも準備を急ピッチで進めていく。

トヨサキくんをこき使うためには、大きなエネルギーが要る。だから、木彫りベンチから立ち上がるやいなや、赤く塗られた自販機へとわたしは突き進んでいったのであった。

リ◯ルゴールドでもエネルギーをチャージできそうだけど、一度も飲んだコトが無い。やっぱり、赤く塗られた缶のコーラの方が、確実に着実にエネルギーをチャージできるだろう。

制服スカートから小銭入れを取り出す。

小銭入れを開けて中を覗こう、とする寸前で、面識のある男子生徒が向かい側からやって来るのに気が付いた。

同学年男子の高垣交多(たかがき こうた)くんは青く塗られた自販機の手前で立ち止まった。わたしとは距離が数メートル。

高垣交多くんは実を言うと我が校を代表するレベルの美少年である。高校2年だから、『美『青』年に脱皮しかかっている』という評判もよく耳にする。たしかに、高2の2学期になって、柔らかく充実したお肌の顔にオトナっぽさが付け加えられたような感じがする。つまり、いかにも『美『青』年に脱皮しかかっている』ルックスだってコト。

ただ、わたくしタカムラかなえは、もっとオトナで磨きがかかっている男性(ヒト)の存在を知っているから、高垣くんの美しさは認めても、長い時間見惚(みと)れるようなコトは無い。

その男性(ヒト)はわたしにとって昔から間近の存在だ。現在形で間近の存在……なんだけど、残念ながら、これ以上距離が縮まるコトは考えられない。

『この件』の詳細を知りたければ過去ログを漁ってもらうコトにして、わたしは高垣くんから眼を離し、赤い自販機に小銭を投入し、真っ赤な缶のコーラの下にあるボタンを押す。

コーラの缶が落ちてくる音がした数秒後に、右隣の青い自販機からもガコン、という音が聞こえてきた。

「タカムラよ。きみとの出会いも『奇遇な出会い』をずいぶんと重ねたモノだな。この自販機コーナーという空間における出会いの偶然性が、着々と失われてきている。そろそろ、きみの中の『既視感』もハッキリと形になってきている頃では無かろうか? もちろん、放課後のこの場において『奇遇な出会い』を積み重ねた結果生まれ出てきた『既視感』のコトを、ぼくは言っているんだよ」

記し忘れていた。

高垣交多くんは、『黙ってさえいれば』、非の打ち所が無い美少年なのだ……。

こんな調子の長台詞(ながゼリフ)がデフォルトだから、◯カ・コーラを口に持っていこうとするわたしの右手の動きが重くなってしまう。

「◯カ・コーラか。ポピュラーでスタンダードで、清々(すがすが)しいほどに赤い缶の塗装だ。――少し残念だな! ぼくが購入した微糖缶コーヒーの塗装は、何の変哲も無い焦茶色(こげちゃいろ)。この微糖缶コーヒーの塗装が青系統の色だったならば、うまい具合に、きみの◯カ・コーラの赤色とコントラストをなしていただろうに……! しかし、今更言ったトコロで仕方が無い!! タカムラよ、きみの右手の動きが少々滞(とどこお)っていないか? コーラとコーヒーの共通点ぐらい、とっくの昔にインプット済みだろう? ……そうさ、『カフェイン』さ。お互い、カフェインを摂取するという行為に、もっと真摯にならねばならないな。己(おのれ)の内部からインスピレーションをスマートに引き出すためのカフェインなのだから、もっとスマートに摂取していきたいモノだ。そうだろう? 同意してくれるだろう!?」

 

× × ×

 

ヒドい目に遭(あ)った。

疲れた。わたし、高垣くんにキツく絞られる雑巾(ぞうきん)みたいになっちゃっていた。

高垣くんは既に去った。長台詞を吐きたいだけ吐いて去っていった。

わたしは美星のもとに戻りかけている。コーラを飲み切るのに時間を要してしまって申し訳無く思いながら、美星が座り続ける木彫りベンチに肩を落として歩み寄る。

美星の眼の前に立った瞬間、違和感が生まれてきた。

なぜなんだろう。美星の両眼に、常ならぬ輝きがある。

たとえるのならば……『なにかの対象』に向けてウットリとしているかのような。少し難しいコトバで表現するのならば、『恍惚(こうこつ)』という状態に近いだろうか。

予想外の眼の輝きに影響されて、わたしは立ちすくんでしまう。美星の異変が、わたしを美星の左隣に座らせてくれない。

「……どっかに行っちゃったね、高垣くん」

眼の輝きが失われない美星のコトバが食い込んできた。

食い込んできたから、じわじわ覚(さと)っていく。

覚っていくのは、『わたしと高垣くんのやり取りを美星がずっと眺めていた』という事実、だけじゃない。

『ずっと眺めていた』、のに加えて、美星は、奔放に振る舞う高垣くんに向けて……!!

「高垣くん、もうちょっとだけ、この場所に留(とど)まっていてくれても良かったのに」

キモチを隠さない瞳の美星が、言い足す。

砂糖だらけのコーラなんかよりも、ずっとずっと甘い声で……!!!