タカムラかなえです!! 桐原(きりはら)高校2年生、『KHK(桐原放送協会)』というクラブで活動しています。名前の通り放送系のクラブで、テレビ番組やラジオ番組をばんばん作っています。
2学期からも活動の勢いは衰えを知らないんですが、わたしには1つ「不満な点」があります。それは、『9月は全くブログで活躍できなかった』という点です。たぶん、わたしや『KHK』は、このブログの9月の記事に一切登場してないですよね? 当然ながら9月にはもう2学期が始まっていたというのに、桐原高校の様子を一切描写してくれませんでしたよね?
「干された」って感覚は、こんな感覚なのかなー。
管理人さん? あなたが名誉挽回するためには、わたしたち桐原高校関係者をブログにガンガン登場させていくしかないですよ……!!
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もう1人の『KHK』会員であるトヨサキくんに留守を任せて、【第2放送室】から抜け出し、旧校舎から抜け出した。
ぐいぐいっ、と歩いていく。目的地は自動販売機が幾つか並んでいるスペースだ。そのスペースはグラウンドが見下ろせる位置に存在する。大きな樹(き)が木陰(こかげ)を産んでくれている場所だ。ちなみに、その大きな樹の下が「伝説の告白場所」になっているとかいうコトは、全然ない。ちなみにちなみに、自販機スペースとは違った場所に実は「伝説の樹の下」が存在しているのだが、今はそういう情報を詳細に説明する時ではない。また今度。
さて、自販機スペースに到達したワケだが、青い自販機の前に爽やかな外見の同級生男子生徒が立っていたので、自販機まであと5メートル未満という所で脚が停まってしまう。
彼は、高垣交多(たかがき こうた)くん。『読書力養成クラブ』なる不可解な名称の不可解なクラブに所属している。不可解なコトは他にもある。彼の爽やかな見た目と爽やかじゃない言動のギャップが酷(ひど)過ぎるのだ。口を開けば、おかしなコトをどんどん言ってくる。彼の姿が視界に入ってくると、警戒心が起こってついつい身構えてしまう。
今日の放課後も身構えたわたしは再び歩き出しはするけど、歩速(ほそく)がスローになってしまう。青い自販機の隣の赤い自販機がお目当てなワケだが、赤い自販機の前に立ったら、高垣くんからおかしなコトを言われてしまう危険性が高い。
それでも、勇気1つを友にして、赤い自販機の目前までわたしは来た。高垣くんの顔を視界に入れずに、小銭を投入口に入れて、アイスカフェオレのボタンを押す。
「タカムラ!! きみは、赤い自販機にシンパシーを感じているのか!?」
左サイドから高垣くんの声が直撃してきて、つらくなる。逃げられるワケも無かったんだ。わたしはアイスカフェオレよりも甘かった。幾ら警戒心を持っていても、こういうシチュエーションになってしまうと、彼から逃れる術(すべ)など無くなってしまうんだ。お店の入り口でのキャッチセールス……ほど悪質なワケじゃないけど、高垣交多くんという男子は、コトバによっていとも簡単にわたしを捕まえてくる。
それにしても、シンパシーって、なに。
違和感が増していくわたしは高垣くんからますます眼を逸らし、無難に缶をオープンして、無難にアイスカフェオレを喉に流し込んでいく。
が、
「自販機の好みに多様性があるのは良いコトだなあ!! タカムラだってそう思ってくれてるだろう!? タカムラは赤い自販機を好んでいて、ぼくは青い自販機を好んでいる。青い自販機の左隣の白い自販機を好んでいる人間だって相当数いるだろう。つまりは――これが、『多様性』なんだな。みんなが同じモノを好きになる方が不自然なんだ。このコトは、社会に対する単なる意見に留まらない。もっと根源的なモノなんだよ。ココロがひとりひとり違って、多様な興味・関心・嗜好(しこう)が形成される。人類は、そういう流れの中で、文明や文化を作り上げてきたんだ……!!」
× × ×
ヒドい眼に遭(あ)った。やっぱり、高垣くんとの遭遇は、キャッチセールスとの遭遇に等しいのかもしれない。
『読書力を養成してる場合じゃなくて、演劇系のクラブ活動をした方が良いんじゃないの……?』
そういう疑念を抱きながら、わたしはクールダウンする。高垣くんから遠く離れ、建物が作ってくれている日陰に立ち、【第2放送室】に戻っていくエネルギーを蓄えようとする。
柔らかい秋風が吹く音がした。
その直後、わたしの右サイドから誰かがやって来る気配がした。
『またもや、マズいコトになっちゃった』
わたしはそう思ってしまった。
高垣くんと遭遇してしまった時の厄介さとは別種の厄介さが、『彼』と遭遇した瞬間に産まれてくる。
マスダ訓史(のりふみ)先輩が近付いてきたのだ。文芸部に所属。とってもクールな外見の男子。高垣くんの見た目の爽やかさとはちょっと違った、見た目のクールさが感じられる。ビターブレンドのコーヒーみたいな佇(たたず)まい。
厄介だ、というのは、わたしとマスダ先輩の関係が、ビターブレンドよりもビターになってしまっているというコトである。
マスダ先輩を見ると、反抗心が立ち昇ってきてしまう。なぜなら、マスダ先輩は、わたしたち『KHK』の活動に批判的で、放送文化というモノ自体に否定的だからだ。
軋轢(あつれき)が最初に起こったのは今年の3月だった。文字数が長くなり過ぎるので詳細は過去ログに丸投げするけど、わたしと彼の冷たい戦争は約半年間にわたって継続している。
9月になって2学期に入ってからも、後輩女子VS先輩男子の冷ややかな「バトル」は収まるコトが無かった。
ちなみに、これは余談だが、8月終わりの某所における夏祭りに行った時に、わたしはマスダ先輩から、たこ焼きとかき氷を奢(おご)られた。彼の方から『金を払ってやる』と言ってきたから、おかしな気分になってしまった。もちろん、たこ焼きとかき氷の代金は返済していない。
……さてさて、接近してきたマスダ先輩に対処しなきゃいけない、ワケではあるんだが、
「少し、神出鬼没過ぎませんか?」
と、わたしは、眼つきをキツくしてしまいながら、攻撃的なヒトコトを発してしまう。
さらには、
「放課後に出会う確率、高過ぎですよね? 先輩、まるで、磁石のN極にひっついてくるS極みたい。わたしに自然に引き寄せられるかのごとくに……」
と言ってしまい、
「わたしの何に引き寄せられているんだか。もし、わたしが磁石のN極で先輩がS極だったら、わたしはS極に成り変わりたいトコロなんですけど」
と、攻撃的発言をまたもやブチ当ててしまう。
マスダ先輩はわたしの約2メートル先に佇んでいる。
そして、反発の表情も見せてこず、反発のコトバも出してこない。
猫背気味なのが、気になった。
猫背だなんて、サイコーに先輩らしくない。休み時間や放課後に背筋を伸ばして校舎の壁際に立ちながら文庫本を読む姿が、先輩の『デフォルト』だと思っていたのに。
よくよく振り返れば、2学期に入ってから、こうやって出くわしてしまった時に先輩の方が曖昧模糊な態度をとってくるケースがそこそこあったように感じられる。
そしてよくよく振り返ってみるのならば、曖昧模糊な時のマスダ先輩は背筋が伸びているコトがほとんど無かったような気もしてくる。
今この場で猫背かつ無言のマスダ先輩を、よく観察してみたら、右手がだらしなく下がっているコトに気が付いた。
右手に文庫本の無いマスダ先輩は、ちょっぴしダサい。