グレーを基調としたチェック柄のワンピースは膝丈。なかなかの清涼感を醸し出している。
ただ、
「もったいないなー。せっかく、なかなかに素敵なワンピースに身を包んでるというのに」
「……もったいないって、なにが?」
そう訊いてくる愛(あい)の声は大層弱々しい。
「コンディションが上昇気流を描いてこないのが」
おれは答える。
愛の目線がまたもや下がってしまう。おれの指摘がマトモにブチ当たってしまったようだ。
ソファ着座の愛とは1メートル未満の距離に立って見下ろしているおれは、
「昨日のあすかの献身をもってしても、コンディションを上昇気流にはできなかった……。おまえのナーバスも、相当頑固なナーバスみたいだな」
カラダの縮こまりをどうにもできない愛は、
「あんまり、ヘンテコな表現、使わないで……」
と、ふるふる震える声を漏らしてくるが、おれは取り合わず、
「いちばん気になるのは、今日、おまえが勤め先でちゃんと授業を行えたかどうかなんだが」
約5秒間程度の空白のあとで、
「ちゃんとできたわよっ、シゴトはっ」
と、おれのパートナーは精一杯強がってくる。
「ホントか~~??」
おれの『からかい』に呼応して、顔を幾分上げてくる愛。
ピリピリとしてきているらしき表情が眼に映ってくる。
こういう反発ぶりがおれにとっては本当に可愛い。
「自分のお仕事が『ちゃんとできた』のならば――」
と、愛の両眼に視線を当てながら言い、
「なぜ、帰宅した途端に寝室に全速力で入っていって、ソッコーで今のワンピースに着替えたのか?」
と、疑問を呈示して、愛の両眼を狼狽(うろた)えさせる。
口元すらも、『痛いトコロを突かれちゃった……!!』とココロの中で悲鳴が上がっていそうな状態だ。
視線を下げてみたら、案の定、膝丈ワンピースの裾付近を両手でギュギュギュググググッ……!! と握っていた。
可愛らし過ぎる仕草なので、必然的に胸がこそばゆくなってきてしまう。
今度は、頭頂部付近に視線を転じてみた。
髪の手入れに無頓着なコトで定評のあるパートナー。アホ毛の頻発地帯が頭頂部付近なのであるが、なんと! 現在、アホ毛の発生は確認できない。
やるじゃねーか、愛ちゃんよ。『やるじゃねーか、髪の手入れ、珍しくちゃんとしてて』なんて口には出さんけどな。
……なるほど。髪の手入れ『だけ』は頑張れた。ナーバスな気分に苛(さいな)まれながらも、チカラを振り絞って、アホ毛を発生させなかった。
よくできました、なのだが、
「はっきり言うぞ、愛。こんなコンディションのままで、おまえを教員採用試験の会場に行かせるワケにはいかない」
膝丈ワンピースの裾付近を握り込むチカラを2段階以上強める愛。涼やかなワンピースにシワが発生してしまう。
「強がったって無駄だからな」
おれはおれの胸の下で軽く腕を組んで、
「受け入れるんだ。これから、おれがおまえにしてやるコトを」
「……どういうイミよ」
窮地の声がおれの胸と胃袋の中間辺りをくすぐる。
おれは何歩か距離を詰める。
軽い腕組みをほどき、右手を伸ばして、グレー系チェック柄ワンピースの左肩をソフトにタッチする。
ナデナデを開始してやりながら、
「おれに『助けられたい』ってのが、本音なんだろ?」
と問うてみる。
なんとも言えぬ角度の目線。口は結ばれているものの、頬(ほほ)の発熱が手に取るように分かる。
「図星なんだな。よーくわかった!」
サッと右手を離す。
2秒後には、もう抱き締めている。
電光石火で包み込んだパートナーのカラダの熱がダイレクトに伝わってくる。
ワンピースの涼やかさとカラダの温みとココロの温みが混ざり合っているのを強く感じる。とても心地良き感触。包み込み続けないワケにはいかなくなる。
背中の中心部をグッと押さえてやる。おれのエネルギーを注ぎ込ませてやったあとで、押さえる強さを一気に弱め、背中を緩やかな速度で擦(さす)ってやり始める。
「アツマくん」
上(うわ)ずる声音に、
「なんだよぉ」
と応えてやったら、
「ありがと」
と、12歳に戻ったかのような声がこぼれてくる。
「やさしい。アツマくん、やさしい」
耳に響いてくる声は幼過ぎる気がしないでもないが……やはり、こんな風に甘えてきてくれないと、おれの方も物足りない。