【愛の◯◯】先輩女子の「イタ電未遂」が寝かせない

 

金曜の夜のぼくの部屋でWikipediaに勤(いそ)しんでいた。【福島中央テレビ】の項目をずっと読んでいたのだ。

読み切って、満足。テレビ局の知識がまた増えて、達成感。

タブレット端末を労(いたわ)るぼくはタブレット端末を充電ケーブルに丁寧に接続してあげる。

……直後、ベッドに置いていたスマートフォンから、けたたましきバイブレーションの音。

イヤな予感と一緒に画面を確かめる。

【板東なぎさ】

ぐあああっ。

板東(ばんどう)なぎささん。ぼくの高校時代の1個上の、クラブ活動における先輩女子。

イヤな予感は天井知らずで上昇していく。これは……これは、先輩女子からの、迷惑電話というやつでは!?

ぼくは、板東さんという先輩女子の人格に一切信頼を置いていない。ゆえに、スマートフォンを掴み上げる右手に余分なチカラが入り込んでしまう。

「もしもし!!」

のっけから荒い声を出すぼくに、

『こんばんみー、羽田(はねだ)くぅん♪』

板東さんのあり得ない『こんばんみー』が決定打となり、

「なんですか!? イタ電でもしたいんですか!? 如何にもフザけ半分みたいな声色(こわいろ)で……!!」

さらにぼくは、

「仕事、もう終わったんですか!? 地方局アナウンサーって、この時間帯には既に退社できるほど、『ゆるふわ』なんですか!?」

『カルシウムが無いねえ』

イヤらしきツッコみ方をしてくる板東なぎささん。

エキサイトしつつも呆れていくぼく、だったんだが、

『羽田くん。あなたを祝福してあげるよ』

という声がいきなりやって来て、

『都内某ケーブルテレビ局の就職内定、おめでとう!!』

祝われているのにヒヤリとなるぼくは、

「……情報、どこから漏洩したっていうんですか」

『え!? どーして、わたしの『おめでとう』に対して『ありがとうございます』って言えないのかなあ』

噛み合ってない……。会話が、絶望的に、噛み合ってない……!!

 

× × ×

 

ぼくの就職活動成功に関するグダグダなやり取りを重ねていたワケなのであるが、

『ねーねー。羽田くんと戸部(とべ)あすかちゃんのお部屋、距離が近かったよねー』

「何を言うんですか板東さん。ぼく、これ以上、変な汗は流したくないんですけど」

『変な汗~~!? ウケる~~~!!』

「ばんどーさんッッ!!!」

スマホにヒビが入る勢いの握力が立ち現れてしまうぼくに、

『あすかちゃんが競馬記者やってる『青春(せいしゅん)スポーツ』だけどさあ、わたしが住んでる地域でも売ってるから、たまーに読むんだよねえ』

「意外です。板東さんがアナウンサーやってるような地方にも流通してただなんて」

『それ、どんだけホンキで言ってんの?? アレか、ローカル局dis(ディス)ですか、田舎叩きですか』

……ぼくは5回連続で深呼吸をして、

「口が滑りました。以後、慎みます」

僅かの間のあとで、

『偉いね。口が滑ったのを、直ちに自覚できて。自分が『うっかり発言』したのをいつまでもどこまでも認められない人、多いんだよ』

かなりマジメな声色。社会風刺的な発言も相まって、板東さんの思わぬマジメさがぼくの感情を揺らす。

このあと先輩女子は、どういう方向に通話を持っていく気でいるのか……。

『6月9日が、あすかちゃんの誕生日だったワケじゃん?』

「……そうですね」

『わたし、羽田くんに、義務を課す』

「……はい?」

『あすかちゃんバースデー当日に起きた面白いコトを、最低15個報告してください。15個報告し終わるまで、寝かさないから☆』

「じゅっ15個ってっ、それ、多過ぎでしょっ、そもそも、どーして『15』って個数になるのっ」

ワケが分からないままに声を出してしまうぼくに、

『6足す9で15、だよ。小学校低学年でもできる四則演算(しそくえんざん)』

と、不可解な板東なぎささんは……アッサリと。