【愛の◯◯】距離を詰めて『オンちゃん』と呼ぶ

 

貝沢温子(かいざわ あつこ)ちゃん。高校2年生。あすかちゃんが卒業した高校に通っている女の子にして、あすかちゃんが部長を務めていた『スポーツ新聞部』の部員。

特筆すべきは、あすかちゃんとの相似点(そうじてん)である。あすかちゃんと『そっくり』とまで思える要素が非常に多い見た目なのだ。3つだけ挙げるのならば、「背丈」「ストレートの黒髪の長さ」「眉毛の大きさ」。これらがあすかちゃんとほとんど同じなのである。あすかちゃんを長年見てきているわたしだからこそ、温子ちゃんの醸し出す『そっくり感』をすごく実感できる。

あすかちゃんとそっくり『でない』のは、カラダのとある部分だけである。

さて、カラダのとある部分云々で温子ちゃんを傷つけたくないので、わたしは、浴衣姿の温子ちゃんの前に立ち、微笑みかけてあげるコトにする。

状況説明をさせてもらえば本日は夏祭りの開催日で、わたしたちは大所帯でお祭り会場に来ているのである。わたしやアツマくんやあすかちゃんや利比古の関係者が大挙して押し寄せているのである。大所帯もすっかり毎年恒例になった。観光バスでお祭り会場にやって来た連中みたいで、正直周りから浮いた感じがある。知り合いの知り合いみたいな人まで呼んだから規模が際限なく大きくなる。――ま、良いわよね。お祭りの盛り上がりに貢献してるというコトで。

で、夕方のこの時間帯に、わたしは浴衣姿で、同じく浴衣姿の貝沢温子ちゃんと向き合い始めているワケだ。

先述の通り温子ちゃんに微笑みかけたわたし。微笑みかけられた温子ちゃんは動揺。わたしの微笑みが上手に見られない。

動揺させてしまった『ので』、敢えて、

「温子ちゃん。お祭りにようこそ。早速だけど――」

と言い、数秒間だけ彼女の様子を見てから、

「――『オンちゃん』って呼んでも、良いかなぁ?」

とお願いする。

「ふぇっ!?」

可愛い驚きの声が『オンちゃん』から露出。

「スポーツ新聞部だと、先輩から『オンちゃん』って呼ばれてるんでしょう? わたしもそれにあやかりたいの」

「あやかる……ですか」

「そーよ」

わたしは、オンちゃんの眼をきちんと見て、

「わたし、オンちゃんともっと仲良くなりたいの」

「エッ」

さらに驚いて、わたしを凝視。やはりというか、ほっぺたには微(かす)かな赤み。

「ステキよ。オンちゃんの浴衣姿」

そう伝えるわたし。

「そんな……。愛さんの方が、浴衣、似合ってます。比べ物にならないぐらい、ステキ……」

オンちゃんがそう言ってくれるのはある程度予測できていた。だから、というか、なんというかで、

「わたしにつきあってよ〜、オンちゃん。あっちにリンゴ飴の屋台があるでしょ? 一緒にリンゴ飴食べましょーよ。今のあなたにはリンゴ飴が良く似合うわ」

「……あのっ」

控え目な声でオンちゃんは、

「リンゴ飴、わたし、今まで一度も食べたコト無くって」

わたしは堂々と、

「だったら、オンちゃんの『はじめてのリンゴ飴』を応援してあげるわ!」

と誓ってあげる。

オンちゃんは、少し上目遣いで、わたしの顔面に見入る。