愛ちゃんと感慨深い話もした後で、蜜柑が作った晩ごはんを食べた。鶏の竜田揚げが特に美味しくて10個も食べてしまった。父が盛んにサブカルチャー関連の話をしたがるので懸命に押しとどめた。
さて、念願のアルコールタイムである。わたしの部屋で、わたしと愛ちゃんのふたりきり。おつまみが山盛りになったお皿の右横には高級ウィスキーがデーンと置かれている。呑まれるのを今か今かと待っているよう。
「父がスーパー戦隊シリーズの話を何度もしようとしてたでしょう? 本当にごめんなさいね、愛ちゃん」
「面白いから良いのよアカちゃん。あなたのお父さんとコミュニケーションしてると本当に飽きないわ」
「そうなの?」
「そうなの。」
テーブルを挟んで優雅な床座りの愛ちゃんは、
「さっき、階下(した)のグランドピアノで、お父さんに戦隊シリーズの主題歌を弾いてあげても良かったんだけどね」
「えっ……。どうして」
「耳コピしてた曲、多かったから。弾いてあげたらお父さん絶対喜ぶでしょ?」
何とかして愛ちゃんの意識を高級ウィスキーに移ろわせたいわたしは、
「ち、父に対する好意は嬉しいけれど……わたしは、この時間を、アルコールで満たしたくて」
愛ちゃんは、爆笑。
「ほんとーにアカちゃんはしょーがないんだからー」
「だ、だって、このウィスキーのボトルは、とっておきで」
彼女は左手をヒラヒラとさせつつ、
「分かってる分かってる。ソーダ割りにしたのをわたしに飲ませると、とんでもないコトになるから、そこだけ注意してね」
と、余裕の有り余った口調で。
× × ×
余裕たっぷりなのは大変宜しいコトだ。
でも、このウィスキーでもってわたしと対峙したら、余裕を持ち続けていられるかしら?
……そういったキモチで、愛ちゃんとサシ向かって呑もうとするのである。
「あなたの弟さんも20代になったワケだけれど」
「利比古がどうかしたの?」
「耐性は、どうなの?」
「タイセイ?」
「アルコール耐性」
「あー」
愛ちゃんはロックグラスを置き、不敵な笑みで、
「強くも弱くもないみたい。わたしと違ってビール飲んでも大丈夫だから、そこは羨ましい」
「ビールも飲めるのね。安心ね」
愛ちゃんは眼を丸くして、
「安心って、なに。アカちゃん」
今度はわたしの方が不敵に笑ってあげる。
「いつかは、彼とも『飲みュニケーション』がしたいものねえ」
そう不敵に言った後で、自分のロックグラスの中身をぐいっ、と飲むわたし。
愛ちゃんの余裕が急降下しているように見えた。
× × ×
「アカちゃん……利比古を……あんまり酔わせちゃ……ダメよ」
愛ちゃんのカラダが前後に動き始めている。
ウィスキーを飲んだ量でわたしと張り合おうとしたのが敗因だったみたい。
「おとうとに……アルコールハラスメントするのは……マイナスポイントよぉ」
徹頭徹尾シラフのわたしは、
「マイナスポイントって、なあに?」
「い……いま、ポイントシステムを、色んなヒトに対して導入してて……つまり」
「つまり、なあに?」
テーブルに突っ伏する寸前の愛ちゃんは、
「あ……アカちゃんは……減点されるのは、イヤでしょう??」
「わたしが減点されたらいったい何が起こるっていうのかしら」
テーブルに潜り込むように愛ちゃんがテーブルに突っ伏した。
「……」と、ついにコトバを発しなくなる。
勝っちゃった。
でも、打ち負かし過ぎたかしら。
せっかく夕方は感動的なやり取りをしていたのに、ここまでアルコールに屈服させちゃったのはマズかったかもしれないわね。
もしわたしがCEOとかだったらコンプライアンスが問われるところだわ……という風な冗談はやめておいて。
可愛らしくフニャフニャに酔い潰れた眼の前の大親友を、これからどうするべきかしら? 考えなきゃ。
× × ×
スッキリとした目覚めだった。アルコールの残滓(ざんし)はカラダの中から一掃されている。窓辺が仄(ほの)かに明るい。朝6時くらいかしら。
「『透き通った小鳥の歌声が窓辺に響いている』なんて、凡庸過ぎる描写表現よね」
誰も聞いていないのにカーテンに向かって呟き、左手でカーテンを開ける。柔らかな温かさがベッドに満ち溢れた。
反対側を見る。高級ウィスキーに惨敗した大親友が眠りこけている。
「アツマく〜ん、もうたべられないよぉ〜〜」
こんな寝言が聞こえてきた。普段アツマさんと寝食を共にしているから、こんな寝言が出てくるのかもしれない。
パートナーが居て、正直羨まし過ぎるくらい羨ましい。
だけれど、この朝は、わたしが、愛ちゃんのパートナー。
ベッドから抜け出すわたし。愛ちゃんのお布団の右横に腰を下ろすわたし。わざわざ正座になるわたし。寝言にならない寝言を漏らしているのを見つめるわたし。
横になってみる。もちろんカラダは愛ちゃんの方に向ける。眠りこけ状態の愛ちゃんのお肌はとっても柔らかそうだ。
お肌に触れる前にワンクッション置くべきなので、とりあえず長〜いサラサラの栗色の髪をいじくってみる。
彼女の髪の感触と栗色の鮮やかさに妬(や)いてしまう。
けれども、
「アカちゃぁぁ〜ん、そこはダメ、そんなところはダメなんだからあぁぁ〜〜」
という寝言が聞こえてくるから、全てを許すコトができる。
9月が始まってから最高の優しさに包まれつつ――緩やかに彼女にカラダを寄せていき、お肌にお肌をくっつける。